中山咲月さんが、自分がトランスジェンダーであり、無性愛者であることに気が付いたのは2021年に入ってから。『彼らが本気で編むときは』という、トランスジェンダーを題材にした映画を観たことがきっかけだった。中山さんは、この映画のどんなシーンに影響を受けたのでしょう…。

「このシーン、と言うよりも映画全体が刺さりました。一見ハッピーなシーンでもどこか辛そうにしている描写があったりして、自分と似ているな…と」
「映画を観て、自分もトランスジェンダーなのかもしれない、と気が付いてからは辛い時間が続きました」

映画に影響を受けているだけで違うかもしれない、でも…。そんな逡巡が続いた1カ月を「あの期間は自分の気持ちに蓋をしていただけ」と振り返ります。そんな苦しい葛藤の先で自分のジェンダーを見つけた中山さんですが、そこで楽になることはなく、むしろさらに深い苦しみを味わうことに。生きることを辞めようとまで考えた彼を救ったのは、親友の存在でした。

「生きよう、と思えたのは親友のおかげです。自分がトランスジェンダーであることを明かしたときに、その人は『そうだと思っていたし、だからこそ女とか男ではなく、咲月のことをひとりの人間として見ていたよ。命を投げ出す勇気があるくらいだったら、わがままに生きてみたら』と言ってくれて、その言葉が自分の中では本当に救いで、だからこそ今の自分があると思っています」

そんな親友の言葉に支えられて世間へ公表する決心がついた彼は、ブログで自身のジェンダーについて明かします。公表をしてから取材日の時点で数カ月が経過している今、どんな気持ちかを尋ねると「公表してから、性格が前よりも前向きになったねと言われることが多くて、自分では良かったなと思っています」と、スッキリとした表情で答えてくれました。

トランスジェンダーだけではなく、LGBTQ+への理解が進んでいるとは言い難い日本でそのことを公表し生きていくことはきっと簡単なことではない。それでも彼が世間に対して自分自身の在り方を言葉にして伝えているその裏側には、強い思いがある。

「トランスジェンダーということも受け入れられにくい現状で、さらに自分の場合は恋愛感情がないアセクシュアルでもある。ある人にとっては想像がつかないと思うんです。そのことも分かっているので、自分を理解して欲しいわけではなく、こういう人間もいることを知ってほしい。ジェンダーの話に限らず、知ることってすごく大切だと思います。知ることで寄り添えることってあるはずで、だからこそ、少しでも認知が広がる世界になればいいなって思うんです」

本来は表に立つのがあまり得意ではなかった中山さん。それでも彼は、表舞台に立って活動することを選んでいます。その原動力はどこから来ているのか…。

「自分のように辛い思いをしている人がたくさんいると思うんです。だからこそ、自分が表の世界に出ることで、『この人でも笑顔でいられるなら自分も大丈夫かも』って感じてもらえたら嬉しい。そのために今、この仕事をしています」

表舞台に立ってあらゆる言葉と接しながら、中山咲月は「どんな未来を作っていきたいか」と尋ねると

「ジェンダー観をわかってもらうことはすごく難しい。理解できない感情かもしれない、とも思います。だけど、こういう人もいる、ということを少しでも多くの人が知っている世の中になればいいなと。この仕事を通じて自分が第一線に出て伝えていかなきゃいけないと思っています」

最後に中山咲月とはどんな人間か聞いてみた。「自分は頑固な人間だと思います。頑固でこだわりもすごく強い。だけど、こだわってきたからこそ今の自分が出来上がったと思うし、そうやって自分の中のモヤモヤした気持ちに対しても根気強く向き合ってきたからこそ今の自分がいて、だからやっぱり中山咲月は頑固な人間だと思います」と明るさを交えながら、力強く話してくれた。



このコンテンツを見るためにはJavaScriptを有効にしてください。Please enable JavaScript to watch this content.

ジャケット¥30,800パンツ¥17,600(ユナイテッド トウキョウ 神宮前店) シャツ※〔アーカイブ〕(KEISUKEYOSHIDA) 靴¥26,400(カミナンド/グラビテート) イヤカフ¥14,300リング¥33,000(ともにルフェール/UTS PR)

Photography_Daisuke Sasaki<SIGNO>
Stylist_Masaaki Ida
Hair Make-up_KATO<TRON>
Text_Aiko Ishizu
Design_Yoshitatsu Yamaya<Ma-hgra>
Composition_Dai Iwaya

INDEX

SHARE

CLOSE