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役によってがらりと変えられる演技力。熱い男はしなやかに踊る【王子様の推しドコロ】

vol.5 堀内將平さん

バレエダンサーやフィギュアスケーターなど、アスリートの中でも特に「王子様」と評されるイケメンたち。“王子様っぽさ”の理由は何なのでしょうか。それぞれの魅力をそれぞれの見所から紐解いていきます。

PROFILE

ほりうち・しょうへい/バレエダンサー(Kバレエ カンパニー所属)。1992年、東京生まれ。10歳からバレエを始め、14歳で留学。ウズベキスタン、モナコ、ドイツと渡り、2012年よりルーマニア国立バレエ団に在籍。’15年、Kバレエ カンパニーにアーティストとして入団。’20年10月にプリンシパルに昇格し、カンパニーの主要演目の主役を踊る人気ダンサー。バレエダンサーの他にも幅広く活動し、ミュージカルやバレエ公演のプロデュースも手がける。日々のリフレッシュ法はお散歩。公式Instagram

「昔は、『この作品が踊りたい!』という目標がありました。経験を重ねるうちに、どんな作品を踊っても必ず自分なりの指針が見えてきて、自分らしさを見つけられることに気がつき、その時に依頼を受けた作品が自分にとってのベストな作品だと思うように。今は、ひとつひとつ自分らしくこだわっていきたいと思っていますし、何よりもバレエ界の未来のために活動しています。スクールでも教えていますし、イベントで踊ったり公演をプロデュースしたり、自分のバレエ公演以外のお仕事も何でもやります。僕を通してバレエというものを知ってもらいたいし、新しい仕事で自分自身も成長できるので」
そう語るのはKバレエ カンパニーのプリンシパル、堀内將平さん。繊細で計算された演技力、のびやかでエレガントな踊りで唯一無二の存在感を発揮し、カンパニーを牽引する存在です。

熊川哲也さんからの言葉に感激

古典の衣裳も似合う甘いルックス、上体の柔らかさとアームス(腕)の優雅な使い方が、観客に違和感なく“王子様”を想像させ物語に引き込みます。
「昔から体が柔らかくて、体操を習っていました。10歳の時に引越したら近所に体操教室がなく、代わりに始めたのがバレエ。最初は『男のコがバレエなんて……』って恥ずかしかった。そんなバレエ人生のスタートですが、運よくロシア人の先生に気に入ってもらえて『毎日来なさい!』と言われるがままにレッスンに通っていました。14歳でウズベキスタン、モナコ、16歳でドイツのジョン・クランコ・バレエ・スクールに留学し、20歳でルーマニア国立バレエ団に入団。約3年間在籍しました」
23歳で帰国、Kバレエ カンパニーにアーティストとして入団。以後、毎年昇格し2020年に最高位であるプリンシパルに。
「いずれは日本で踊りたいと思っていたので、帰国後に日本で抜きん出てレベルの高いKバレエ カンパニーのオーディションを受けました。受かるとは思っていなかったので、嬉しさと驚きがありました」
努力と才能で、チャンスを確実に掴みながら流れるようにバレエ人生を歩んできた堀内さん。
「最大の転機は間違いなくKバレエ カンパニーに入団したことです。踊り方や考え方が180°変わりました。基礎はもちろん大事にしていますが、熊川哲也ディレクターのメソッドは、僕の知っていた踊り方や演技の仕方と違ったんです。見せ方、頭のつけ方、アクセントのとり方がすべてカンパニーならでは。日本人がより魅力的で華やかに見える踊り方で、海外で学んできた僕にはすごく新鮮でした。知らなかったことばかりで入団以来、常に挑戦の連続で今に至ります」
そんな熊川哲也さんから言われた印象的な言葉があると言います。
「『蝶々夫人』の初演を終えた時に”Your future is bright!”と声をかけていただき、感激しました。自分がこれまでやってきたことは間違っていなかったと確信できた瞬間です」

©後藤薫

堀内さんの踊りの素晴らしさは優雅でエレガントという軸がありながら、その役柄でがらりと雰囲気が変わるところ。
「僕はバレエを踊る上で演技にこだわっていて、それが自分の強みだと思っています。観客の方々を魅了するには、登場人物、設定への共感が大事だと思うので、時代背景を現代に落とし込んで役作りをするようにしています。たとえば『ロミオとジュリエット』。かつては人の死が身近にあったけれど、今はそうじゃない。現代に合わせた死への反応や演技をしないと、観客は共感できないと思うから」

演技にこだわるけれど、踊りはのびのびと

5月24日スタートの『蝶々夫人』公演に主演。
「『蝶々夫人』は僕が主役を任せていただけるようになったころ、熊川ディレクターが制作し世界初演を果たした思い出深い作品。悲しい作品ですがドラマティックで、きっと日本人にしかわからない切なさや悲恋があり心を打たれます。第1幕はアクロバティックな盛り上がる踊りが展開され、第2幕では役の心情が描かれ緩急をつけながら引き込んでいきます。僕が踊るピンカートンというアメリカ人海軍士官の役はひどい男なんです。想像してみても共感できないんです(笑)。だから、ただの冷血な男にならないように、彼にも良心があるところをところどころで表現できればと考えています。また、アメリカ人らしさを出せるように映画などを参考に研究しています」
注目して観てほしいポイントは「ピンカートンと蝶々が出会うシーン。恋に落ちるシーンですがとても可愛いくて、胸キュンポイントです(笑)。最後の再会シーンはダンサーによる解釈の違いで表現の仕方が変わってくるので、見比べていただくのもおもしろいと思いますよ」。

公演の合間には舞台のプロデュースなども手がけ、忙しい毎日。常に前に進むために練習以外でアプローチしていることがあるそうです。
「のびのびと思い通りに踊るために大事なのがメンタルです。アスリートがメンタルトレーナーをつけるように、バレエダンサーも舞台で実力を出し切るためのメンタルコントロールが重要だと思うので、カウンセリングに通っています。役作りの相談をすることもありますね。あと、肉を食べません。最初は体のために、そして今は動物愛護の面から。体が軽くなり踊りやすくなりました」
次世代のバレエ界のために活動したいと話し、バレエへの熱い愛がひしひしと伝わってきます。
「言葉がないからなのか敷居が高いと思われがちなバレエですが、言葉がないからこそ自由に解釈できて奥が深い。さらに、超人的な身体能力と高い芸術性を同時に味わえる稀有な芸術文化です。なかでもKバレエ カンパニーの作品はエンターテイメント性が高く、舞台装飾やたたみかけるようなシーンの展開と、初めて観た方でも飽きずに引き込まれると思います。観客の方々が楽しめる自己満足で終わらない公演を目指しているので、アーティスティックなものが苦手でも、いい席じゃなくても、満足していただけるはずです。一度足を運んでみてください。ヨーロッパだと老若男女が気軽にバレエを観に行く習慣がありますが、日本はまだまだ浸透していない。今よりも幅広い層の方々に劇場に足を運んでいただきたいし、そのためだったら何でもします!」

堀内さんの姿を観られるのは・・・・・・Daiwa House PRESENTS 熊川哲也 Kバレエ カンパニー Spring 2023 『蝶々夫人』 東京文化会館 大ホール(2023年5月24日~28日)

2019年にKバレエ カンパニーの20周年記念作品として初演された『蝶々夫人』が再演! プッチーニのオペラを題材に熊川哲也さんがオリジナルで演出した、日本の美しい文化と精神性を表現した全2幕のグランド・バレエ。和と洋が融合した、華やかで洗練された衣裳や舞台装飾も魅力。堀内さんは5月25日14:00、27日12:00の回に、遊郭に身を置く女性と恋に落ちる、アメリカの海軍士官・ピンカートン役で出演予定。切なくドラマティックな愛のドラマに心打たれるはず。詳細はKバレエ カンパニー公式ホームページでご確認ください。

取材・文/味澤彩子

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