『彼女たちの犯罪』(日本テレビ)公式ホームページより
2023年夏ドラマも中盤を過ぎて、どんどん面白くなっていくものと、みるみる失速していくものにわかれる頃。まだまだ喋り足りないドラマオタクのコラムニスト小林久乃と元JJ編集長イマイズミが、意外な掘り出し物から期待したぶん残念だったものまで語りつくしました。
ダークホースは初回から引きつける展開の『彼女たちの犯罪』
小林久乃(以下小林):前回のランキングでは収まらなかったドラマでもっと喋りたい作品ってあります?
元JJ編集長イマイズミ(以下イマ):『彼女たちの犯罪』(読売テレビ・日本テレビ系列)です。これ初回から面白かったですよ!
小林:前田敦子(神野由香里役)がいい演技をしていますよね。“私には人格がありません”みたいな空っぽな役が、すごく上手くて。やっぱり只者じゃないよこの女は、と思いました。
イマ:さすが国民的アイドルグループのセンター務めただけありますね。このドラマ、事件が起きたところからスタートして、徐々にその過程を明らかにしていく展開に引きつけられます。
小林:大どんでん返しがあるわけじゃないんだけど、「この人やっぱり結婚してたか」とか「やっぱ死んでないよね」とか、視聴者の期待を裏切らないところが、深夜に観るにはちょうどいいかも。で、また野間口徹さんがいました(笑)。
イマ:そうそう、切れ目ないですよねー。
小林:ドラマオタクの人と話をすると、絶対に野間口さんの話が出てくるんですよ。あの人いつ休んでるんだって。まさに1人ブラック企業(笑)。いつかインタビューしたいですよね。
イマ:このドラマ、最初は期待してなかったぶん、意外に楽しめています。
どうしてこうなった? ガッカリな夏ドラマたち
小林:逆に、夏ドラマのラインナップの中で期待していたのに「あれ?」っていうドラマありました?
イマ:もう仕方ないんだけど、『この素晴らしき世界』(フジテレビ系列)ですかね…。体調不良で主役降板して、代役が若村麻由美さんになってホント大変なのはわかるけど、やっぱり鈴木京香主演で観たかったー。
小林:『御手洗家、炎上する』(2023年/Netflix)の京香さん(御手洗真希子役)は最高でしたね。シングルマザー時代とセレブ妻時代をきちんと演じ分けていて、肌の質感をはじめ外見もガラッと変えてたし。その点、若村さん(浜岡妙子役)は主婦と女優の差があまり感じられない。
イマ:若村さん、『初恋、ざらり』(テレビ東京系列)にも出てるけど、その中で演じている毒親はリアリティーがあって凄いんですけどね…。
小林:そう、あの役は良いんですよ! やっぱり脇のほうが輝く女優さんなのかも。そういえばイマイズミさん、『初恋、ざらり』推してましたよね。
イマ:もう期待通りの、もどかしくて切なくていい話。主演の二人(風間俊介、小野花梨)も演技上手いし、これノンフィクション?ってレベルですよ。軽度知的障害で自閉症の女性を主人公にするなんてホント勇気あるというか。
小林:初回のシーンは観ていて辛かった。話はよくできてると思うけど、風間(俊介)くんがちょっと…。
イマ:え、なに? 実は人殺してそう?(笑)
小林:『3年B組金八先生〈第5シリーズ〉』(1999年/TBS系列)とか『それでも、生きていく』(2011年/フジテレビ系列)のイメージがいまだに消えないんですけど(笑)。
イマ:今回は裏人格ない…はず…。だから、二人には幸せになってほしい!
小林:しかし、風間くんもああいう作業着が似合う年齢になってきたんですね(しみじみ)。どこか、えなりかずき的雰囲気も出てきたし。
イマ:それ褒めてるんですか?(笑)。
織田裕二の湾岸署カムバックを切望します!
小林:始まる前にわれわれが期待していた『シッコウ‼~犬と私と執行官~』(テレビ朝日系列)ですけど、織田裕二の存在感がデカすぎて、他の役者が霞んで見えてしまうのが弱点ですよね。特に、あれ?ケンティー(中島健人)いた?って思っちゃった(笑)。
イマ:顔の演技が凄い圧力で…。ちょっと脇役に収まり切れてない感ありますよね。
小林:一応、伊藤沙莉が主演だけど、彼女はちゃんと自分の役に徹していて、そこは完璧だと思う。とっちらかりそうになる共演陣をうまくまとめているし。
イマ:執行官という職業は初めて聞くし、お仕事ドラマとしては面白いですよね。
小林:地上波ドラマで、保護犬問題について言及しているところも新しい。でも、ロケ場所がどっかのドラマで見たことあるなっていう所ばっかりでちょっと残念。『silent』(2022年/フジテレビ系列)を例に出すと、やっぱり世田谷代田駅とか松見坂のカフェとか、「ここ行ってみたい!」って聖地巡礼したくなるような新しいロケ場所を開拓してほしい。
イマ:あのカフェ、雑誌の撮影でもよく使ってたんだけど、今はもう混みすぎてて全然無理らしいですよ。都内のあちこちで撮影する苦労はわかりますけどね。警察に道路許可をもらいに行って、当日は交通整理して…みたいな。でも、そういった面倒くささを超えて探した努力が、最終的にドラマの出来を左右すると思います。
小林:話は戻るけど、織田裕二はそろそろ湾岸署に戻って来ればいいのにって思います。
イマ:え?『踊る大捜査線』(1997年/フジテレビ系列)の続編ですか?
小林:そうそう『踊る大捜査線 マーベリック』(笑)。だって、まだ全然動けると思うし。
イマ:たしかに退職寸前のデカが主役になる刑事ドラマありますけど、どの立場で戻るんですか? まさか、和久さん(いかりや長介)枠?(笑)。
小林:いや、わかんないけど、やっぱり織田裕二ってスターだから、どうしても自我が隠し切れないんですよ。「シッコウ‼」のキャスティングのバランスの悪さも、主役なら解消できるかなと。
イマ:そういえば、織田裕二って映画『ベストガイ』(1990年)で主演していましたね。まさに和製トム・クルーズ…、ありますね、『踊る大捜査線 マーベリック』(笑)。
夏の疲れを癒してくれる『週末旅の極意』
小林:『18/40 ~ふたりなら夢も恋も~』(TBS系列)はどうですか?
イマ:コメディにするかシリアスにするか、どちらかに思い切り振った方が良かったような気がします。あと、福原遥ちゃん(仲川有栖役)がどうしてもシングルマザーに見えない。直近の『舞いあがれ!』(2023年/NHK総合)というか、「まいんちゃん」というか…。純粋でまっすぐな役がこの人の本領じゃないかな。
小林:わかります。やっぱりイメージ強いから、まだその方向性でやってもいいかなとは思う。あとは、有栖は貧乏学生のわりにいい服着てるなとか、瞳子(深田恭子)はあの規模の会社なのにすごいマンションに住んでるなとか、祐馬(鈴鹿央士)はダンスがイマイチだなとか、加瀬さん(上杉柊平)そんな簡単に金沢から引っ越せないでしょとか、いろいろ気になるところがあって。
イマ:いろいろが多くないですか?(笑)。たしかに『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系列)くらいぶっ飛んでいればいいのに、ちょっと中途半端ですよね。
小林:そういえばイマイズミさん、『週末旅の極意』(テレビ東京系列)観てます?
イマ:ああ、観月ありさと吉沢悠が夫婦役の、旅番組みたいなドラマですね。
小林:ストーリーがどうこうっていうドラマじゃないんですけど、休みにどこ行こうかな?って気分の時にちょうどいい。
イマ:お笑い芸人がわちゃわちゃ旅をするバラエティー番組より、じっくり料理と宿と温泉を見せてくれるのはいいですね。
小林:わたし、ドラマに出てくる宿の視聴者プレゼント、応募しちゃったもん。
イマ:え、この業界にいてちゃんと応募してる人初めて見た!(笑)
小林:このドラマや『ばらかもん』にハマるってのは、やっぱり疲れてるんですかね…。
イマ:まだ、夏ドラマは中盤戦なので、これからしっかり気を張って最後まで完走しましょう!
小林久乃(こばやし・ひさの)コラムニスト、編集者。正々堂々の独身。中学生から地上波ドラマを愛して30年以上、筋金入りのオタク。好きが高じてついには『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)を上梓した。ラブストーリーが好きで、特に禁断の恋がテーマとなると視聴熱が俄然、盛り上がる。公式HPはhttps://hisano-kobayashi.themedia.jp
元JJ編集長イマイズミ 女性誌『CLASSY.』『JJ』の編集長を歴任。1クールの地上波ドラマを全録画するようになったのは、編集長になった13年ほど前から。「仕事で新しい俳優、タレントさんを覚えるため」というのが理由だったけど、見事に大ハマり。ホームドラマとラブコメ好き。韓国ドラマもやや中毒。
イラスト/lala nitta