vol.11 速水渉悟さん
Photo by Yumiko Inoue
PROFILE
はやみ・しょうご/1996年生まれ、京都府出身。身長178㎝、B型。4歳からバレエを始める。ドイツ・シュトゥットガルトのジョン・クランコ・バレエ学校を経て、2015年にアメリカのヒューストン・バレエに入団。同年にユース・アメリカ・グランプリNYファイナルシニア男性部門で金メダル、審査員特別賞を受賞。その後、帰国し2018年に現在の新国立劇場バレエ団に入団。2021年にファースト・ソリスト、2023年にはプリンシパルに昇格した、抜群のテクニックで注目を集める若手人気ダンサー。
持って生まれたものを嘆くより、見せ方と工夫で美しく
日本で唯一の国立劇場付属のバレエ団である「新国立劇場バレエ団」で、若手有望株として注目を集める速水さん。2018年に入団し、次々とソリスト(ソロパートのある役)として踊り、2020年に『ドン・キホーテ』にて初主演、羽根があるかのように軽やかに浮かび上がる跳躍と、超絶技巧で観客を圧倒、日本での主演デビュー公演にして話題になりました。
『くるみ割り人形』より(撮影/瀬戸秀美)
速水さんがバレエを始めたのは4歳。
「小さい頃から音楽が流れると踊っていたそうで、母に連れられて教室に行きました。小学校高学年で挑戦したコンクールでいい結果が出せず、コンクールで賞をとるという目標ができて真剣に取り組むようになり、最終的には海外に留学することを目指しました。15歳のとき、憧れだったフリーデマン・フォーゲルさん(シュトゥットガルト・バレエ プリンシパル)の出身校であるジョン・クランコ・バレエ学校への留学が叶い、それが今までのバレエ人生の中で一番の転機に。自信をもって留学をしたのですが、井の中の蛙だったと世界の壁の高さを知りました。体格の違いを痛感し、自分が持っていないことを嘆くのではなく、持っているものを生かす美しい見せ方や工夫の仕方を学びました。毎日が刺激的で人生の財産ともいえる経験です。3年後、アメリカのヒューストン・バレエ団に入団しましたが、元々日本に戻ってきたいという思いがあって。2017年にバレエ団がハリケーン被害にあって2週間活動できなかった期間に、新国立劇場バレエ団のオーディションを受け、合格しました」
速水さんと言えばその滞空時間の長い伸びやかな跳躍力と確かなテクニック、そして主役じゃなくても舞台上で目を引く華やかな存在感。また、明るい少年っぽさも唯一無二な魅力として、新しい役を踊るたびに話題。
「フリーデマン・フォーゲルさんとデイヴィッド・ホールバーグさん(現オーストラリアバレエ芸術監督)にずっと憧れています。体のライン、脚のラインがきれいなダンサーが好き。あの美しい骨格に憧れます。あの骨格を持っているわけではありませんが、舞台上で上半身をより立体的に、脚のラインを美しく見せるために努力もしています」
大好きなバレエ音楽に包まれながら役に没入します
2018年に入団し、2020年の初主演舞台『ドン・キホーテ』では、堂々と貫録さえも感じるダイナミックな踊りで会場を沸かせました。陽キャラであるバジル役を、年下男子っぽくやんちゃな雰囲気で踊る、速水さんらしさの光る役作りが印象的でした。2021年にはファースト・ソリスト、2023年にはプリンシパルに昇格!
「実は僕、あまり緊張しないんです。でも先日、リハーサルで指導スタッフに『それで本番大丈夫?』と言われて、気が緩んでいたのかもと考え直し、調整し舞台に臨みました。客観視できないこともあるので、カンパニーのスタッフや舞台を見てくださった方からの感想は大事にしています」
『くるみ割り人形』より(撮影/瀬戸秀美)
12月22日(金)~2024年1月8日(月・祝)に予定されている新国立劇場バレエ団の『くるみ割り人形』では、主役の王子を踊る予定。
「年末年始の風物詩でもある『くるみ割り人形』。毎年のように踊るので、自分でも成長を感じられ楽しみにしている作品です。新国立劇場バレエ団の『くるみ割り人形』はとてもスピーディで、とにかくステップが難しくてハード。振付とステップがぎゅっと詰まっているので、かなり見応えがあると思います。物語バレエを踊るときに大事にしているのは、役への没入感。踊りはもちろん、その役になりきるために小説を読んだり、過去の作品を見たり、自分なりに解釈しパートナーと話し合い、役を作り上げていきます。今回はパートナーが2人いるので、それぞれ少しずつアプローチを変える予定です。王子役は非現実的なので解釈が難しく、どんなにハードなステップでも大変そうに見せないように、自然な余裕があるように踊ることを心がけています。『くるみ割り人形』の王子様はクララの理想の男性。憧れるようなスマートな男性像を目指して役作りをしています。特に注目してほしいのはグラン・パ・ド・ドゥ(主役の男女2人の踊り)。優雅な音楽と過酷なステップ。この相反する2つの要素をいかに簡単そうに、えエレガントに見せられるか、練習を積んでいます」
小さいころから音楽があればいつも踊っていたという速水さん。ご自身の考えるバレエの魅力は?
「素敵なオーケストラの音楽に合わせて踊れること。バレエは音楽を可視化したものだと思うから、いかに音楽に溶け込んで踊れるかが大切。僕がバレエを愛し続けていられるのは、素晴らしいバレエ音楽があるからだと思います。劇場で鑑賞するのはハードルが高いとおっしゃる方も多いですが、素晴らしいバレエ音楽、ダンサーの美しい踊り、華やかな舞台装置や衣裳……五感をフルに使って優美なものを堪能できるのがバレエ。まずは観に来ていただきたいです。『くるみ割り人形』は、みなさんもきっと耳にしたことがある有名な音楽が多いですし、ストーリーにもなじみがあると思うので、初めてでも見やすい演目。クリスマスのイベント感覚でぜひ!」
速水さんの姿を見られるのは……新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』新国立劇場 オペラパレス(2023年12月22日~2024年1月8日)
E.T.A.ホフマンの童話を元に、クリスマスの夜の出来事を描いた『くるみ割り人形』。チャイコフスキーの3大バレエのひとつとされ、世界中のバレエ団がクリスマスシーズンに上演される人気演目。様々な演出家のバージョンがありますが、新国立劇場バレエ団では、充実したダンサー陣がいないと成立しないスピーディでテクニック際立つ振付、華やかで上品な美術や衣裳が印象的なウエイン・イーグリング版を上演。少女クララが恋心を抱き、成長していく過程を、チャイコフスキーの華麗で幻想的な音楽と共に楽しくメルヘンに描く名作です。速水さんは、12月24日(日)13:00~、28日(木)14:00~、31日(日)16:00~、2024年1月6日(土)13:00~に出演予定。詳しくはホームページ(くるみ割り人形 | 新国立劇場 バレエ)にてご確認ください。
取材・文/味澤彩子