『下剋上球児』(TBS)公式ホームページより
前評判が高い作品が多かった秋ドラマですが、いざ観始めたら、期待通りだった、もしくは期待外れだった、はたまたダークホースが現れた!と最初の予想とは全然違う結果になることも。ドラマオタクのコラムニスト・小林久乃と元JJ編集長イマイズミが中間報告的に、本当に面白い秋ドラマランキングを発表します!
二人が選ぶ第1位は日曜劇場と大ヒットドラマの続編!
元JJ編集長イマイズミ:11月に入ってそろそろ佳境に入ってきた2023秋ドラマですが、中間報告としてそれぞれのベスト5を発表しましょう! どっちからいきます? じゃんけんします?
小林久乃:いいよ、大人なんだからじゃんけんなんてやめましょうよ(笑)。じゃあ私からいきますけど、第1位は『きのう何食べた?2』(テレビ東京系)です。イマイズミさんのランキングには入ってますか?
イマ:『きのう何食べた?2』と『大奥2』(NHK総合)と『家政婦のミタゾノ6』(テレビ朝日系)のシリーズものは、もう面白いのがわかってるので、あえて入れませんでした。『きのう何食べた?2』はどこらへんが良かったですか?
小林:前回よりもパワーアップしたところですね。シーズン1の時はゲイカップルと周りの人たちとの違和感を描写するシーンがいくつかあったんですが、今回は異性愛か同性愛なのか関係なく、中年男性が直面する現実的な問題を題材にしています。たとえば老後の話とか。
イマ:ああ、お墓の話ですね。たしかにあれは誰もが当てはまる。
小林:シーズン1が放映されたのが2019年。それから4年経ってLGBTQの話も普通に議論されるようになってきて、この二人のような関係が特別なものじゃなく当たり前のことになるといいなと思います。それにしても内野聖陽さん、ケンジ役ハマりすぎでしょ!
イマ:西島(秀俊)さんはシーズン1のペースを守ってるのに、内野さんはすごく自由というか、ふざけているというか、もう全セリフがアドリブに聞こえる(笑)。
小林:そういう二人のバランスがいいんですよね。あと、もう一人ふざけているといえば山本耕史! ハロウィンの回の警官コスプレ、凄かったですよね。腕が普通の人の2倍くらいあった。
イマ:『きのう何食べた?』を連載してる週刊モーニングで、原作者よしながふみさんのドラマの現場レポートがあったんだけど、山本耕史だけ「もうこれ以上爪痕残さなくていいです」的なこと書いてありました(笑)。
小林:最近はやたらと胡散臭い役ばっかりやってますよね。『ひとつ屋根の下』(1997年/フジテレビ系)で純度の高い柏木文也(山本耕史)をやってた彼はどこにいったのかと!
イマ:いやもう四半世紀経ってますから(笑)。さて、私の第1位は『下剋上球児』(TBS系)です。いわゆる熱血教師ドラマかと思ったら、2話目で主人公の南雲脩司(鈴木亮平)がまさかの教員免許偽造という展開で、ええええ!ってなりました。
小林:犯罪者が主人公の日曜劇場って新しいですよね。これからどう持っていくんでしょうか。
イマ:全部で3年くらいの話だから、いくつかヤマが用意されているんでしょうけど、視聴者が犯罪者を応援できるかどうかですね…。そして、このドラマ、セリフの喋り方が独特で、みんなの声が重なったり、声を張らずにボソボソ喋ったりするのがリアルでいいなと思いました。高校の部活の空気感もうまく出てるし、さすが生徒役を半年もかけてオーディションしただけあるなと。
小林:鈴木亮平のX(旧Twitter)で、撮影する球場を満員にしたいからボランティアエキストラの募集を呼びかけていて、やっぱり日曜劇場は本気度高いなと思いました。ドラマの制作現場も予算がどんどん削減されてるって聞くけど、こうやって役者さんも一丸となっていい作品にしようって熱意が伝わると視聴者もついてきますよね。
第2位は『パリピ孔明』と『ゆりあ先生の赤い糸』
小林:じゃあ次! 私の第2位は『パリピ孔明』(フジテレビ系)。
イマ:あ、『パリピ孔明』、私は4位でした!
小林:漫画原作だし、転生ものだし、実はあんまり気乗りしてなかったんですけど、観始めたら「あれ?面白いじゃん」ってなりました。これは予想外でした。
イマ:ほらー、漫画もアニメも面白いから絶対大丈夫って言ったじゃないですか! どのへんが良かったですか?
小林:とにかく登場人物のビジュアルが全員イカれてますよね(笑)。向井理(諸葛孔明役)なんて、あの衣装を着たら2m超えですよ。存在感ありすぎ。あと、コインランドリーでジャージ着てたり、ウサギの着ぐるみを着てたり、稀代のいい男だからこそどんなコスプレでも成立しちゃってる。
イマ:森山未來(オーナー小林役)もキレッキレですよね。すぐ三国志ネタぶち込んでくるし。
小林:あれ観ると、漫画でもう一回三国志読み直そうかなって思えてきます。
イマ:え、横山光輝版で全60巻(文庫版は30巻)もあるから、読んでるあいだにドラマ終わっちゃいますよ(笑)。つか、『パリピ孔明』から三国志に戻る人いるんだ…。
小林:そして、渋江修平監督の色使いがすごく素敵だなって思いました。音楽をテーマにした漫画を映像化するのって結構難しいのに、とてもうまくハマってると思います。あと、演者の歌もみんな上手!
イマ:英子(上白石萌歌)の成長とともに、ラスボス的なメンディー(前園ケイジ役)がどう絡んでくるかが気になりますね。
小林:じゃあ、続いてイマイズミさんの2位は?
イマ:私は『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日系)です。次々現れる厄介な人たちが持ち込むトラブルを、なんとかして克服しようとする伊沢ゆりあ(菅野美穂)。毎回頑張れ!って応援したくなります。
小林:出てくる人が全員ちょっとずつ憎たらしいですよね。
イマ:そうそう。中でも鈴鹿央士くん(箭内稟久役)にはちょっと感動してます。三田佳子(伊沢節子役)、宮澤エマ(伊沢志生里役)、松岡茉優(小山田みちる役)っていう演技オバケたちと対峙してても全然食われてない。繊細なんだけど、ちょっと生意気で図々しいゲイの役なんて相当難しいと思うんだけど、ちゃんと人物像にリアリティーを感じます。
小林:ぐちゃぐちゃの人間関係の中でも便利屋の木戸大聖くん(伴優弥役)がオアシス的存在ですね。『First Love 初恋』(2022年/Netflix)で若いときの並木春道(佐藤健)をやったときから注目しています。私も結構便利屋を頼んでるんだけど、木戸くんみたいな子、来ないですよ?
イマ:そりゃ来ないですよ(笑)。とにかく、このドラマはどうやってあの難局をゆりあが乗り越えていくのか目が離せません。小林さんの3位はなんですか?
第3位は令和版「渡鬼」と夜ドラがランクイン
小林:たぶんイマイズミさんとかぶると思うけど、小池栄子連ドラ初主演の『コタツがない家』(日本テレビ系)。
イマ:いやー、それギリギリで入れてないんですよ。
小林:ええ、入ってないの? このドラマ、令和版の『渡る世間は鬼ばかり』(1990年/TBS系)じゃないかと思ってます。昔だったら嫁姑バトルなんだけど、夫舅になってるところが新しいなって。そして、男同士ってなんか陰湿(笑)。昔、『ダブル・キッチン』(1993年/TBS系)では花岡都(山口智子)と花岡真知子(野際陽子)がちゃんと向き合ってバトルしてた。玄関先で掃いたゴミを郵便ポストに詰め込んだり、玉のれんを叫びながら切ったり、とにかく壮絶(笑)。
イマ:このドラマでは直接やりあわないで、父親の達男(小林薫)は、ねちねちメモを取ってましたね。
小林:そうそう。そしてやっぱり金子茂樹さんの脚本がいい! 悠作の担当編集・土門(北村一輝)が「結婚生活は本来ぬるま湯じゃないんだよ。お湯の温度下げて快適にしてるのは、悠作、お前なんだよ」ってセリフもなるほどねーと思ったし。
イマ:問題児の3人の中でも悠作(吉岡秀隆)がとにかくムカつきますよね。子供みたいに声張り上げてわがまま言うところとかザラッとする。
小林:吉岡秀隆ってすごくいい人とか気の弱い人の役をやるイメージがあるけど、これは『北の国から』(1982年/フジテレビ系)の純以来のダメ男ですよ(笑)。
イマ:このドラマ、妻も観てるんですけど、「ああ、あなたこういうところ同じね」とか言ってくるから、ホント居心地悪いんですよ…。
小林:金子さんの脚本は後半にいくにしたがって面白くなるので、これからが楽しみです。
イマ:そして、私の3位は夜ドラ枠の『ミワさんなりすます』(NHK総合)です。俳優・八海崇(堤真一)の家に久保田ミワ(松本穂香)が家政婦になりすまして入り込む話なんですが、とても品のあるコメディーで、登場人物が少ないところも15分という短さにぴったり。
小林:ひょんなことから自分の推しと同じ空間にいることになるっていう話は、今クールの『推しが上司になりまして』(テレビ東京系)と同じですね。「推し」というテーマはドラマ界でも流行りなんですかね。
イマ:一億総推し時代ですからね。令和ならではって感じがします。なりすましがバレた後にどうやって家政婦を続けるのか気になるところです。続いて小林さんの4位は何ですか?
俳優推しのドラマから目が離せない!
小林:これはたぶんかぶらないと思いますが『うちの弁護士は手がかかる』(フジテレビ系)。もうね、ムロツヨシを推したい一心でランキングに入れました(笑)。急に表情や声色を変えるサイコパスっぽい演技とかホント見ていて飽きない。
イマ:わかるー。ムロツヨシはずっと見てられますよね。
小林:ムロツヨシって東京理科大の数学科に合格したぐらい数学が得意で、何年か前『あさイチ』(NHK総合)で、売れない頃に考え出した自分が役者になるための数式を説明してるのを見て、やっぱこの人ただもんじゃないなと。最近観た『赤ずきんちゃん、旅の途中で死体と出会う』(Netflix)でもムロツヨシだけいいんですよ。
イマ:じゃあもう、これはムロツヨシだけを見るドラマですね(笑)。私の4位は『パリピ孔明』だったんで、5位を発表すると『フェルマーの料理』(TBS系)です。小林さんは“眼福ドラマ”って言ってましたが、高橋文哉(北田岳役)はカッコいいうえに演技も上手い。数学で挫折した岳が料理の世界に入るところからスタートするんですけど、時折挿入される「その後の岳」がホント別人みたいで、そのギャップが凄い!
小林:私も料理好きなんだけど、ドラマで出てくるレシピを見ると感心します。へー、ナポリタンの麺を冷やすんだーとか。
イマ:料理監修はMr.CHEESECAKEの田村浩二さんで、料理指導は服部栄養専門学校の教授たち。とにかく出てくる料理が美味しそうなんです。
小林:一人前の料理人として成長していく岳がなぜ闇落ちしたのか、そして裸で飯食ってる謎の男(高橋光臣)は何者なのかが気になりますね。
イマ:番組HPによると「服についたソースを洗い落とす手間を省くため」らしいんですけど、ちょっと何を言ってるのかわからないですよね(笑)。さて、小林さんの5位はなんですか?
小林:それはもう『マイ・セカンド・アオハル』(TBS系)に決まってるじゃないですか! 毎回2回ずつ観てますから。
イマ:じっくり噛みしめてますね…。え、やっぱり道枝くん(小笠原拓役)ですか?
小林:もうね、透明感そのもの。日本中の水分を彼のところに全部集めた感じです。10歳も上の佐弥子(広瀬アリス)に向かって「可愛いじゃん」とか「まだ9時だしもうちょい飲む?」とかグッときます。地元の同世代の女友達とLINEでやりとりしてるんですよ。今度東京来たら、あの階段でグリコ!パイナップル!チョコレート!とかやりたいねって(笑)。
イマ:あの遊び、我々が子供の頃からあるけど、まだやってるんだって思いました。ドラマとしてはまあ普通というか…。
小林:内容はどうでもいいんですよ! 年下男子とどうにかなるっていうストーリーが大事なんです! おじさんたちが日曜劇場に夢中になるように、TBSの火曜10時枠は『王様に捧ぐ薬指』とか『18/40~ふたりなら夢も恋も~』など、なんかついつい観ちゃうドラマが多い。そして、みっちーだけじゃなくて安藤政信もいいんですよ。
イマ:ああいう優しくて穏やかな役、珍しいですよね。だいたい危険な香りがするか、影のある男を演じるイメージ。
小林:ま、とにかく『マイ・セカンド・アオハル』は最初から5位にするって決めてたんです。1位にするのはやっぱりおかしいかなって。
イマ:何ですか、その忖度(笑)。ランキングは嗜好性の違いであんまりかぶりませんでしたが、これから12月の最終回に向けてどのドラマも楽しみですね!
【コラムニスト小林久乃の2023秋ドラマBEST5】
①きのう何食べた?2
②パリピ孔明
③コタツがない家
④うちの弁護士は手がかかる
⑤マイ・セカンド・アオハル
【元JJ編集長イマイズミの2023秋ドラマBEST5】
①下剋上球児
②ゆりあ先生の赤い糸
③ミワさんなりすます
④パリピ孔明
⑤フェルマーの料理
小林久乃(こばやし・ひさの)コラムニスト、編集者。正々堂々の独身。中学生から地上波ドラマを愛して30年以上、筋金入りのオタク。好きが高じてついには『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社刊)を上梓した。ラブストーリーが好きで、特に禁断の恋がテーマとなると視聴熱が俄然、盛り上がる。公式HPはhttps://hisano-kobayashi.themedia.jp
元JJ編集長イマイズミ 女性誌『CLASSY.』『JJ』の編集長を歴任。1クールの地上波ドラマを全録画するようになったのは、編集長になった13年ほど前から。「仕事で新しい俳優、タレントさんを覚えるため」というのが理由だったけど、見事に大ハマり。ホームドラマとラブコメ好き。韓国ドラマもやや中毒。
イラスト/lala nitta