vol.15 第17回世界バレエフェスティバル
「世界バレエフェスティバル」……3年に一度、世界中のバレエ団から、バレエシーンを牽引する人気ダンサーたちが東京に集結し、二週間に渡りガラ公演を行う、日本だけでしか見ることができない贅沢なステージ。なんと第一回目の開催は1976年。まだ世界が東西で対立し、もちろんインターネットもなく移動手段も限られていた時代。マーゴ・ファンテイン(英国)、マイヤ・プリセツカヤ(ロシア)、アリシア・アロンソ(キューバ)という伝説の3大プリマが国境を越えて同じ舞台に立ったことは、世界に衝撃を与えました。それから3年ごとに日本で開催され続け今年で17回目。今ではこの公演に出演することがトップダンサーの証しとなりました。各国トップカンパニーを代表するダンサーたちが誇りをかけてステージを舞う……バレエ界の現在がわかる、最高峰のステージです。
「第17回世界バレエフェスティバル」に出演するダンサーは男女合わせて約30名。過去にこちらのサイトでも紹介した、パリ・オペラ座バレエ団のジェルマン・ルーヴェさん、ユーゴ・マルシャンさん、英国ロイヤル・バレエ団のワディム・ムンタギロフさんなど、バレエ界の王子たちが勢ぞろいします。
今回注目するのは、“生きるギリシャ彫刻”と言われるミラノ・スカラ座バレエ団のロベルト・ボッレさん、モデルのような佇まいの若手スター、英国ロイヤル・バレエ団のリース・クラークさん、貴公子のようなルックスと驚異的な身体能力をもつシュツットガルト・バレエ団のフリーデマン・フォーゲルさんの3人です。
Roberto Bolle
©Vito Lorusso
PROFILE
ロベルト・ボッレさん/1975年生まれ、イタリア北西部ピエモンテ州出身。テレビで見たバレエに惹かれ7歳から地元ヴェルチェッリのバレエ教室でバレエを始める。11歳でイタリア最高峰のバレエ学校、ミラノ・スカラ座バレエ学校に入学。19歳で卒業し、ミラノ・スカラ座バレエ団に入団。天性の華やかなオーラと、恵まれたビジュアルで頭角を現し、入団2年目で『ロミオとジュリエット』のロミオ役に抜擢。21歳にしてカンパニー最高位のプリモ・バレリーノに任命。その実力と存在感は世界で評判を呼び、英国ロイヤル・バレエ団、ロシアのボリショイバレエ団、マリインスキーバレエ団、フランスのパリ・オペラ座バレエ団、アメリカのアメリカン・バレエ・シアターなど世界中の名だたるカンパニーに招かれ客演し、国際的に活躍の場を広げる。ミラノ・スカラ座バレエ団をいったん退団した後、2003~2004年シーズンよりエトワールに。また、英国ロイヤル・バレエ団のゲストプリンシパル、2009~2019年アメリカン・バレエ・シアターのプリンシパルも務める。現在49歳にして常に進化を続ける稀有なダンサーで、各国の名門バレエ団から集まったダンサーたちと定期的に主宰するガラ公演『ロベルト・ボッレ&フレンズ』は毎回大盛況、ファンを楽しませています。公式Instagram @robertobolle
©Luciano Romano
宝石のような瞳に太平洋のような広い肩幅、鍛え抜かれた鋼の肉体をもち、”生きるギリシャ彫刻”の異名をもつ当代きってのスターダンサー、ロベルト・ボッレさん。ミラノ・スカラ座在籍時、たまたまスカラ座に居合わせたルドルフ・ヌレエフ氏(ロシアから亡命後、英国ロイヤル・バレエ団で活躍し、その後パリ・オペラ座バレエ団の芸術監督となった伝説のダンサー)が当時15歳のロベルト少年を見かけ、準備中だった作品『ベニスに死す』の美少年タジオ役にスカウトしたという逸話があり、幼い頃から類まれなる存在感を持っていたことが想像できます。
舞台を掌握する圧倒的な華、優雅で力強いジャンプ、ドラマティックな演技力そして安定感のあるパートナリングで世界中の名バレリーナから指名を受け、観客を虜にしてきました。あのアメリカ版ヴォーグの名編集長アナ・ウィンター氏も彼のファンという噂。また、その肉体美を惜しげもなく披露する、主宰のガラ公演『ロベルト・ボッレ&フレンズ』は毎回名ダンサーが集まり大人気。イタリアの至宝とも呼ばれる美しさで数々のメゾンブランドのモデルを務めることも。成熟した芸術性、鍛え抜かれた体で紡がれる踊りはいまだに進化を続けています。
Reece Clarke
PROFILE
リース・クラークさん/1995年生まれ、スコットランド・ノースラナークシャー州エアドリー出身。4人兄弟の末っ子で、地元のダンススクールにて3歳でバレエを始める。その後、ロンドンまで通いながらロイヤル・バレエ・スクール・ジュニア・アソシエイツ・プログラムで学ぶように。なんと兄弟4人全員が狭き門と言われる名門英国ロイヤル・バレエ・スクールに入学しバレエを学んでいたとか(同じ家族から4人も通うのは史上初だったらしい)。早くも才能が認められ、学校からは奨学金が支給され地元のコミュニティからも資金援助があったそう。5年間下級学校に通い上級学校へ進学、上級学校2年目では既に英国ロイヤル・バレエ団の公演に頻繁に出演。翌年、表現力が豊かな踊りをする生徒のためのリン・シーモア賞を受賞し、3年間の就業を待たずして2013年、英国ロイヤル・バレエ団に入団する。翌年から代役での抜擢などで活躍し、2016年にはファースト・アーティストに昇進し、『くるみ割り人形』の王子役、『眠れる森の美女』のフロリモンド王子役など次々と大役デビューし、2017年にソリスト、2020年にファースト・ソリスト、2022年には最高位であるプリンシパルに昇進。近年活躍の場を広げている若手ダンサーのひとりです。公式Instagram @reececlarke_
『ドン・キホーテ』より
長身が多い海外のダンサーの中でもひときわ存在感がある、身長189㎝のすらりとした体躯に目を見張る長い脚。ノーブルなルックスにエレガントで伸びやかな踊りで、注目を集めるリース・クラークさん。パワフルなバレリーナのパートナーも難なくこなす大型犬のような優しさと包容力がありながら、長身から繰り出すスケールが大きなラインの美しい踊りに、近年は繊細な表現力までも加わり、世界バレエフェスティバルに初参加の注目株です! 今回は「世界バレエフェスティバル」Aプロ、Bプロ、ガラ公演の他に、東京バレエ団の特別全幕プロ『ラ・バヤデール』で主演ソロル役にも抜擢。バレエ演目きっての色男でありダメ男でもあるソロルを、若さを生かした初々しさとセンシュアルな魅力が両立したダイナミックな踊りで魅せてくれるはずです!
Friedemann Vogel
©Carlos Quezada
PROFILE
フリーデマン・フォーゲルさん/1979年生まれ、西ドイツ(当時)・バーデン=ビュルテンベルク州シュツットガルト出身。5人兄弟の末っ子で、シュツットガルト・バレエ団のダンサーだった兄の影響を受ける。モナコ公女アントワネットから奨学金を受けて、モンテカルロの名門バレエ学校、プリンセス・グレース・アカデミーを卒業。18歳で由緒あるローザンヌ国際バレエコンクールにて金賞を受賞し、同年イタリアのユーロシティ・コンクールで優勝。さらに翌年には、アメリカで開催されたジャクソン国際バレエコンクールにて優勝。20歳でシュツットガルト・バレエ団に入団。瞬く間に昇進し、なんと4年後には最高位のプリンシパルに任命。2020年にドイツダンス賞の優勝パフォーマーとして表彰され、2021年にはユネスコ後援のもと、国際演劇研究所により公式メッセージを執筆する国際ダンスデイ大使にも選出。古典作品の主役から、ジョン・クランコ、ジョージ・バランシンからジェローム・ロビンス、イリ・キリアン、ジョン・ノイマイヤーなどの世界を代表するコンテポラリーの振付家の作品の主役までとレパートリーは幅広く、ロシア、イタリア、イギリス、ドイツ、スウェーデン、中国、日本、韓国、フィンランド……と世界中の権威あるバレエ団で客演。国際的高評価を得ている押しも押されもせぬスターダンサーです。公式Instagram @friedemannvogel_official
シュツットガルト・バレエ団の前で ©Roman Novitzky
10等身?と思われるすらりとバランスのいい身長189㎝。スマートで柔軟性に富んでいながら鍛えられた体躯。そして甘い王子さまフェイス。立っているだけで美しいフリーデマン・フォーゲルさんの魅力はその振り幅の広さ。美しく長い脚を優雅に使い、『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』などのいわゆる古典クラシック演目ではキラキラとしたオーラをふりまきながら甘美な王子役を、『オネーギン』や『椿姫』などの演劇性の高いクラシック演目では役に憑依しドラマティックかつ情熱的に、コンテンポラリー作品では知的にそして柔らかく妖艶に舞う。同じダンサーとは思えないその多面性で観客を魅了し、舞台に引き込んでいきます。近年、日本のバレエファンの間で話題となったのは、シュツットガルト・バレエ団で来日した時に踊った『ボレロ』。鍛えられたボレロ鑑賞者が多い日本人の観客が見守る中披露したメロディの踊りは、純真で太陽のような喜びに満ちていて、最後まで音楽と正確に動きが合わせられ、今までに見たことがないと大評判に。舞台ではクールにスマートに見えますが、実はお茶目でキティちゃんの着ぐるみを着て踊ったこともあるフリーデマン・フォーゲルさん。その新たな魅力が世界バレエフェスティバルでは見られるかもしれません。
ロベルト・ボッレ&リース・クラーク&フリーデマン・フォーゲルの姿が見られるのは……「第17回 世界バレエフェスティバル Presented by KOSÉ」(2024年7月27日~)
3年に一度、日本で開催される「世界バレエフェスティバル」。世界中の名だたるスターダンサーが一堂に集結し、その誇りを胸に2週間踊る、バレエ界の“いま”を体感できる世界最高峰のバレエステージです。主演に2組のゲストダンサーを招いた前夜祭ともいえる東京バレエ団の全幕特別プロ『ラ・バヤデール』(7月27日、28日)と、世界各国の総勢約30名の今をときめくスターダンサーが出演するガラ公演、Aプロ(7月31日~8月4日)、Bプロ(8月7日~8月10日)、ガラ(8月12日)は、いずれも東京文化会館にて。『ラ・バヤデール』ではリース・クラークさんがソロル役を、Aプロではロベルト・ボッレさんが『アフターザ・レイン』、リース・クラークさんが『クオリア』、フリーデマン・フォーゲルさんが『椿姫』より第3幕のパ・ド・ドゥ、Bプロではロベルト・ボッレさんが『ル・パルク』、リース・クラークさんが『マノン』第1幕より寝室のパ・ド・ドゥ、フリーデマン・フォーゲルさんが『うたかたの恋』に出演予定。※ガラ公演は3人とも出演予定ですが内容は未定。詳しい、演目や日時などは公式ホームページをご確認ください。
取材・文/味澤彩子