
PROFILE
Jeon Min-chul(全 珉徹)/2004年生まれ、韓国・京畿道 光州市出身。身長184㎝。血液型A型。幼い時から現代舞踊や韓国舞踊を習い、13歳でバレエを専攻。芸術専門の中学(聖和芸術中学)に転校、同高校を経て韓国芸術総合学校舞踊院を卒業。2025年、ロシアの名門「マリインスキー・バレエ」にファースト・ソリストとして異例の入団(同バレエ団の入団はプリンシパルのキミン・キムに続いて二人目の韓国人ダンサー)。2025年のユース・アメリカ・グランプリ国際コンクール(権威あるバレエコンクール)シニア男子部門でグランプリに輝き、入団して1年余りで『ジゼル』『ラ・バヤデール』『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』の主役に抜擢されている、世界が注目する若手ダンサー。
K-POP、韓ドラ、Kコスメ……韓国カルチャーの勢いが止まりません。日本をはじめ近隣諸国のアジア圏内だけに留まらず、その人気はグローバルなものになる昨今、バレエ界にも韓流の兆しが。その中でも、彗星のごとく現れたバレエ界のニュースターが、チョン・ミンチョルさん。モデル顔負けの10頭身スタイルを武器に、その優雅でラインの美しい踊りはバレエ大国ロシアの2大バレエ団のひとつ「マリインスキー・バレエ」の芸術監督をも魅了。2025年、ソリストではなくファースト・ソリスト(上から2番目の階級)として入団すると、1年余りで5作品の主役に抜擢。韓国では“ミンチョルリノ”という愛称でアイドルのように愛され、2月には『ロミオとジュリエット』の主演を踊ったというチョン・ミンチョルさんに、バレエとの出合いから世界で注目されるようになった現在の心境を伺いました。
テレビで観た『白鳥の湖』から、ロシアの「マリインスキー・バレエ」へ
――バレエを本格的に専攻することを、お父様に反対されていたそうですが、チョンさんとのバレエとの出合いを教えてください。
きっかけはテレビで観た『白鳥の湖』。「あれをやりたい!」と母に伝えたら、幼い頃は体が弱かったこともあり、すぐにバレエ教室に連れていってくれたのですが、最初に習ったのは現代舞踊と韓国舞踊でした。だからバレエよりも気楽に、男子でも自然に始められたのかもしれません。そしてバレエのレッスンを受けるうちに、バレエの美しい魅力にどんどんひきこまれてしまったのです。
父は、趣味として通っていると思っていたようですが、僕がすっかりバレエにハマッてしまい、「(バレエの選考がある)芸術中学に進んで本格的にやりたい」と言い出してからは、かなり心配をしていたようです。
2016年2月から2017年6月までミュージカル『ビリー・エリオット』(少年が父の反対を押し切りバレエダンサーを目指す映画『リトル・ダンサー』のミュージカル版)の長期のオーディションを受けていました。毎日、そのことにしか集中できないほど生活のすべてそこに向いていて、その姿を見て「息子はこの道に進んでも最後までやり遂げそう」と感じてくれたようで、その後はとても応援してくれています。

――現在はロシアのマリインスキー・バレエで活躍中ですが、なぜ、マリインスキー・バレエだったのでしょうか?
僕は子供の頃から韓国で「ワガノワ・メソッド(マリインスキー・バレエ団が有するバレエ学校「ワガノワバレエ学校」が確立したバレエのメソッド)」でバレエを学んでいたのです。「ロシアバレエこそ最高峰だ」と教育を受け、映像もたくさん見てきた中で、自然と“マリインスキー・バレエ“が僕にとって夢のバレエ団、近づくことさえできない雲の上の存在になっていったのです。
高校1年生の頃でしょうか? その夢が手の届かない幻想のように感じられるようになってきて、「自分は何もせずに憧れているだけなのではないか?」と不甲斐なくなり、夢に近づくためには何をするべきか、自分の課題はどこなのか、考えながら行動するようになりました。そうやって夢を追い続けてきた結果が今につながっているのだと思います。
マリインスキー・バレエの一週間に及ぶクロージングオーディションを受けました。入団後も、芸術監督が役を与えてくださり、本当に運良く主役や二番手の経験をさせていただき、感謝しかありません。一方で、今は新人ダンサーに多くの役を任せていただく責任の重さも感じています。だからこそ、ひとつひとつの公演に全力を注ぎ、常に自分のベストを尽くして舞台に立っています。
自分自身が幸せでいようと努力すること
――チョンさんの踊りの魅力は、ラインの美しさとフレッシュでダイナミックなテクニックの共存にあると思います。踊る上で大切にされていることはなんでしょうか?
僕が大切にしているのは「踊りの中からセリフが聞こえてくる」ようにすること。それが目標であり、今の課題でもあるのです。だからこそ、自分が伝えたいことを、できる限り体の動きだけで表現できるダンサーになれればと考えています。
それに加えて、動きの中の細かいディテールにもかなり意識を向けています。経験を重ねても、そういった細部をおろそかにせず、常に拾い上げながら自分の踊りを磨いていくこと。そう思って日々精進できるのが自分の強みだと思っています。
そしていつも自分の中で思っているのは、時間がどう流れても幸せな気持ちを失わずに踊り続けていきたいということです。幸せだから踊り始め、踊っているとさらに幸せになります。今のところずっと楽しく満たされていますが、この“幸せ”な感情がどこまで続くかはわからないからこそ、踊れる限りはできるだけ長く、この気持ちが続いてほしいと願っています。そのためにも、自分で意識して幸せを保とうと努力している気がします。

『ロミオとジュリエット』より ©Kiyonori Hasegawa/NBS
――今まで踊ってきた役で、いちばん楽しかった役を教えてください。
『ロミオとジュリエット』のロミオです。2026年1月に東京で踊った(『Zenith of Baleet―至高の舞―』)バルコニーのパ・ド・ドゥも大好きです(マリインスキー・バレエでの全幕デビューは2月)。“愛”の中には、実はすごくたくさんの感情があるじゃないですか? その感情をいろいろな形で表現するのが面白く、作り上げていく過程もとても楽しんでいます。
それからマリインスキー・バレエで踊った『白鳥の湖』のジークフリート王子もすごく楽しめました。白鳥と人間の区別がつかなくなるとか、白鳥に恋をするとか、話の設定に関して正直最初は戸惑いがあったのです。ですが主役としてこの人物を深く掘り下げていく過程がすごく興味深く、自分の解釈を舞台でうまく表現できた達成感を感じることができて、とても嬉しく思っています。
観ていて魅力的に感じる女性の役柄はたくさんありますが、僕は『白鳥の湖』という作品がとても好きなのです。普段バレエを鑑賞する時は、どうしても自分と同じ男性を中心に観てしまいますが、『白鳥の湖』は女性ダンサーを中心に観ています。それは、人の体で白鳥の姿を表現すること事態が信じられないぐらいに美しく、僕にとって“芸術の極み”のように感じられるから。特に、白鳥の翼のラインを腕で創るまでに、どれほどの努力が積み重ねられているのか知っているからこそ、観るたびに大きな感動があります。強く心を打たれますね。

――今後、踊ってみたい役を教えてください。
小さい頃から夢見てきた役が『ロミオとジュリエット』のロミオなんです。その理由は“語るバレエ”がすごく好きだから。目標である、“言葉を使わず体の動きだけで伝えたいことを表現する”ことを観客の方にできる限り届けたい。だから、“語るバレエ”に惹かれるのだと思います。
そして『ジゼル』も僕にとっては“語るバレエ”であり、大好きです。『ジゼル』はマリインスキー・バレエですでに経験することができました! 念願の『ロミオとジュリエット』は、2月にデビューすることになり(取材は1月)、全力で準備をしているのです‼
楽しんで出し切ることに喜びを感じる
――“存在が王子様そのもの”と話題のチョンさんですが、王子を踊る上でのこだわりや、ご自身の中の“王子っぽい”と感じるところを教えてください。
僕の場合は、作品ごとに考え方、演じ方を切り替えていますが、たとえば『白鳥の湖』や『くるみ割り人形』は、おとぎ話に出てくる絵に描いたような王子をイメージしながら踊っています。先生からアドバイスしていただけますし、自分が思い浮かべる“王子らしさ”を表現することは難しくは感じておらず、とても楽しんでいるんです。俳優さんが役に入り込むような、その人物の人生を生きている感覚で純粋に楽しみながら踊っています。
ですが、自分の“王子様っぽい”ところはどこでしょうか……(笑)。いろいろな方から「話し方が落ち着いていて品がいい」と言っていただけることがあるので、そこにしましょう! 実際はそこまでおとなしい性格ではないと思いますが、ファンの方々がそう言ってくださるのが嬉しいです。

――ロシアでの大活躍、他の国でのガラ公演の出演とお忙しいかと思いますが、リフレッシュ時間にはどんなことをされていますか?
バレエ以外のことで、まだ趣味を見つけられていない気がします。ストレスを感じた時は、とにかくすごく悲しい映画を見たり、読書をして感情を思い切り外に出すようにはしています。無理にでも感情を吐き出してしまえば、不思議と翌日には楽になっているものです。
僕は、公演が終わった瞬間に溢れる幸せを感じるんです。満足できたかどうかは関係なく、観客のみなさんに自分の踊りを届けて、全力で出し切ったと思えるから。準備してきた過程も含めてやり遂げたという感覚があって、達成感と終わってしまったという少しの寂しさが混ざる中で、拍手をいただく瞬間が何よりも幸せ。それもリフレッシュにつながっているのかもしれません。
いちばん難しく、いちばん魅力的なのがバレエだった
――お話しているとバレエとの相思相愛ぶりが伝わってきますが、今もなおバレエに魅了され続ける理由はなんだと思いますか?
正直に言うと、幼い頃から舞踊をやってきて僕にとっていちばん難しかったのがバレエだったのです。基礎として身につけないといけない動きがとても多く、それをひとつずつこなしていくのがとても大変でした。でもその難しさ自体が、僕にとっては魅力でもあった気がします。負けず嫌いでもありますし、「やると決めたらやり通す」という気持ちが強いタイプなので、途中でやめるという選択肢はありませんでした。
そして、バレエには終わりがないのです。何かひとつ技術を習得しても、ほかにもまだまだ課題が無限大にあり、何十年経っても終わらない。でも「また次に進もう。またひとつ積み重ねよう」という気持ちで続けてきた先に、今があるのです。常に新たなものを学び、自分を磨き続けるその過程こそが、僕にとっていちばんの楽しさであり、バレエの魅力なのだと思います。

――最後に、JJ読者にメッセージをお願いします!
僕がバレエを観に行く理由は、自分自身がバレエをやっていて学びのためというだけではありません。公演を観に行くと、翌週まで続くほど大きいエネルギーをもらえます。ダンサーが舞台で情熱のすべてを出し切るように踊る姿から力をもらい、そのエネルギーの影響を受けて、自分自身も翌日また踊ろうと思える。つまり、生きるための原動力をもらっている感覚があります。そしてたくさんのインスピレーションを受けます。それは、僕に限らず、バレエをやっていっていない人も同じだと思うのです。バレエは観ているだけで幸せになれる芸術なんです。みなさんに「幸せを感じてもらえたら」僕にとってその公演は成功。僕の踊りを観た多くの方が楽しんで、幸せを感じてもらえたら嬉しいですし、また日本で踊れる機会を楽しみにしています。

舞台の合間という多忙なスケジュールのなか、私服で取材現場に現れたチョン・ミンチョルさん。さらりとしたヘア、こぶし大かと思うほどの小さなお顔、そしてどこまでも伸びやかな長い手脚。まるでバレエの王子役を踊るために生まれてきたかのような、類まれなるヴィジュアルにスタッフ一同思わず息をのみました……!
印象的だったのはその佇まいだけではありません。礼儀正しく、ひとつひとつの質問に真摯に向き合う姿勢。そして21歳とは思えないほど確かな人生観と、言葉の端々からあふれ出すバレエへの熱い情熱。才能に甘んじることなく、努力を重ね、自らの手で道を切り開いてきた芯の強さが伝わってきました。
新しい風をまといながら進化を続けるチョン・ミンチョルさん。その存在から、これからも目が離せません。
撮影/浜村菜月(LOVABLE) 取材・文/味澤彩子



