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“バレエ界の帝王”最後の舞台、その前に……【王子様の推しドコロ:番外編】vol.30 ファルフ・ルジマトフさん

PROFILE

Farukh Ruzimatov/1963年生まれ、ウズベキスタン共和国タシケント出身。10歳で名門、ロシア国立「ワガノワ・バレエ・アカデミー」の視察団の目に留まり故郷を離れ入学。卒業後、ロシアを代表する世界最高峰のバレエ団「マリインスキー・バレエ」に入団。ヴァルナ国際バレエコンクール銀賞、パリ国際バレエコンクール特別賞などを受賞し、1986年には早くもプリンシパル(ダンサーの最高位)に昇格。同年、初来日。1990年にはアメリカン・バレエ・シアターでゲストダンサーとして踊り始めグローバルに活躍し、日本では1991年のマリインスキー・バレエ日本公演で大ブレーク。以降、定期的に来日。2000年には、「ロシア人民芸術家」を授与され、2007年にはミハイロフスキー劇場バレエ芸術監督に就任。踊ることに専念するために同バレエ団芸術監督を辞任後、国内外で精力的に活動し、2023年に60歳の記念に制作されたアンドロソフ振付『王は踊る』を上演している。故郷・タシケントのナヴォイ劇場のバレエ団の芸術監督も務めた。御年63歳にしていまだに彫刻のような肉体をもち、舞台に立てば若手顔負けの躍動感溢れる踊りを見せ、レジェンドダンサーの名を欲しいままにしている。

ファルフ・ルジマトフ――それは、バレエ界においての生ける伝説。弾丸のようにエネルギッシュに舞台上を駆け抜け、優美にセンシュアルに物語を奏で、その存在感で舞台を制圧するダンサー。日本でも数々の伝説を持ち、時代を象徴するカリスマ的ダンサーであるルジマトフが、2026年6月に舞踊人生最終章となる日本引退公演を開催。今回は【王子様の推しドコロ】番外編として、ルジマトフの数々の伝説をおさらいします!

[ルジマトフ伝説①]冷戦崩壊の最中、アメリカで客演するという偉業を成し遂げた突出した存在

ルジマトフさんの代名詞となった『海賊』のアリ役

ニジンスキーやヌレエフ、バリシニコフなど、世界のバレエ史に名を残す、数多くのスターダンサーを輩出してきた世界最高峰のバレエ団「マリインスキー・バレエ」。ルジマトフさんは、そんなマリインスキー・バレエで活躍してきたダンサーの中でも一層際立ったロシアの至宝と言われる存在です。

1984年に出場したパリ国際バレエコンクールではスタンディングオベーションを受け、その圧倒的な身体能力と異彩を放つ存在感はインターネットもまだ存在しない’80年代に世界のバレエ界で噂となります。そして、ロシアがソ連のころ冷戦体制が崩壊しつつあった歴史的、政治的障壁が高い’90年に、アメリカを代表するバレエ団「アメリカン・バレエ・シアター」に客演するという偉業を成し遂げます。自由を求めてアメリカへ行き、1年後にはマリインスキー・バレエに戻りますが、これを機に世界的に名が知られるようになり、’91年の来日公演(初来日は’86年)にて日本でも大ブレーク。世界の主要なバレエ団で客演するように。

今でこそ、世界屈指のバレエ鑑賞環境を誇る都市・東京。しかし当時の日本では、海外のスターダンサーの舞台に触れられる機会は限られたもの。そんな時代に、ルジマトフさんはまさにアイドル的な人気を博し、多くの観客を魅了。それから30年以上にわたり、日本のファンへの想いを大切にし続け、定期的な来日公演でも妥協なき美を追求した名演で、変わらぬ輝きを放ち続けています。

ディアナ・ヴィシニョーワなど数多くのバレリーナがルジマトフさんと踊りスターに

また、ロシアの至宝として『海賊』『ドン・キホーテ』『白鳥の湖』など古典作品として世界的な名声を得て、数々のパートナーダンサーをスターにしてきたレジェンドダンサーである自身に満足することなく、現代的な作品にも挑戦。進化をし続ける稀有なダンサーでもあり、伝説とその継承となる、引退公演が楽しみでなりません。

[ルジマトフ伝説②]彫刻のような肉体から繰り出される卓越したテクニックと官能的なカリスマ性

『シェヘラザード』

ルジマトフさんの踊りの魅力と言えば、エキゾチックなヴィジュアルと肉体美、存在感のある超絶技巧と、溢れ出る色気としなやかさ。ひとたびジャンプや回転技を繰り出せば、そのスピードのある動きは空間を切り裂き、嵐が巻き起こったような衝撃、驚愕を観客に与えます。それは男性的な力強さだけなく、この上なく色っぽく情熱的、そして柔らかくエレガント。その様々なギャップを内包する唯一無二の踊りは、見る者を夢中にさせ数々の名演を世に刻んできました。ルジマトフさんを有名にしたのは、野性味溢れる跳躍と、常に芸術に挑み続ける孤高のオーラ溢れる『海賊』のアリ役。『白鳥の湖』『ジゼル』『眠れる森の美女』など高貴な王子役においても、ルジマトフさんは独特のエキゾチックな情熱をほのかに忍ばせた役作りで魅せます。どんな役であっても“ルジマトフらしさ”に満ちた新鮮さを宿し、ひとたび舞台に現れれば、その瞬間に観客の視線を一身に集め、圧倒的な存在感で空間を支配します。

60歳を過ぎた今でさえ、その鍛え抜かれた肉体は健在。あまりにも長い手脚、美しさとエネルギーを放つ神々しい立ち姿に「踊らなくても立っているだけで、ありがたい存在」。そう観客に思わせ満足感を与えてしまう強烈なオーラを持ち合わせているのです。

[ルジマトフ伝説③]大御所になっても求められることに答え続けるエンターテイナー

『ドン・キホーテ』

ダンサーといえども人間。若い頃はテクニックで魅せていたダンサーたちも、年を重ねるごとにテクニックから表現に比重を置き、そしてより長く舞台に立ち続けるためにも、毎回全力全開で疾走する踊りを見せなくなるのは仕方のないこと……。

でもルジマトフさんは違います。いつだって完璧に計算され全力疾走。男性ダンサーとしては目を見張るほど高いアラベスク、回りすぎなのでは?と思われるような情熱が爆発する回転技と空高く舞い上がりそうなジャンプ。体力を消耗する公演のラストカーテンコールでさえ、求められればグランフェッテをしてしまうそのサービス精神は他を圧倒。ミハイロフスキー劇場バレエの来日公演『眠りの森の美女』では、日本のファンのためにあえて主演ではない悪の精カラボス役を演じたことも。国王夫妻を妬み、恨む魔女という難役を、妖艶かつ邪悪に体現する圧巻の演技力で、観客を一瞬にして古典的なおとぎ話の世界へと引き込む。そのナチュラルボーンエンターテイナーぶりは、主役以上に強烈な印象を残すほど。常に観客にいい意味で衝撃を与え続け、観客はいつまでも彼のパフォーマンスを観ていたいと魅了されてしまうのです。

[ルジマトフ伝説④]息子も将来を嘱望される貴公子バレエダンサー

体の半分以上が脚という恵まれた体格、男性ダンサーには珍しいほどの柔軟性、そして貴公子のようなルックスで、ある時バレエファンの間で話題となった、ワガノワ・バレエ・アカデミーでバレエを学ぶ、美しい少年のSNS。そう、彼こそルジマトフさんの芸術性を受け継ぐ、愛息子ダレル・ルジマトフ。2003年生まれ、サンクトペテルブルグ出身。バレリーナのヴィクトリア・クテポワを母に持つというサラブレット。入学するまでバレエを学んだことがなかったにも関わらず、まだ11歳だった2014年に、導かれるようにワガノワ・バレエ・アカデミー入学。2023年にルジマトフさんと同じ、マリインスキー・バレエに入団しコール・ド・バレエとして研鑽を続けています。父からは「努力して、自分の力で達成すること」を教わったというダレルくん。「バレエは僕の人生そのもの。だから好き」という彼の日本デビューとなる本公演に注目が集まっています。

ファルフ・ルジマトフさんの姿が観られるのは……「ルジマトフ JAPAN FINAL」大阪・梅田芸術劇場、東京・新宿文化センター(2026年6月13日、16日、17日)

数々の名演を世に刻み、1990年代から日本でも圧倒的な人気を誇るロシアの至宝、ファルフ・ルジマトフ。長きにわたり頂点に君臨し、永遠とも思われてきた彼のダンサー人生を締めくくる特別なガラ公演が開催されます。生ける伝説と言われたルジマトフの伝説の完結となる、日本最後の公演には彼の芸術性を受け継ぐ、彼のミューズであるイリーナ・ペレン、アンジェリーナ・ヴォロンツォーワ、デニス・ロヂキン、日本人で初めてボリショイ・バレエで主役を踊る千野円句、息子であるダレル・ルジマトフなど豪華ダンサーたちが一堂に会す、世界でここでしか観られない公演です。ルジマトフ氏は、AプログラムではN.アンドロソフ振付『Ne me quitte pas(いかないで)』『ボレロ』、Bプログラムでは自身改訂振付『牧神の午後』、N.アンドロソフ振付『王は踊る』を踊る予定。大阪・梅田芸術劇場メインホールにて6月13日、東京・新宿文化センター大ホールにて6月16日、17日上演。詳しくは光藍社公式ホームページでご確認ください。

 

取材・文/味澤彩子

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