女子高生が走るソフトバンクのビジュアルに、空手着が勇ましい部活男子のカロリーメイト広告。石田真澄さんの写真はどこか優しく、(自分は体験したことがなくても)懐かしく、胸をぎゅっと掴まれる。映える写真を撮れる人はたくさんいるけれど、石田さんは何が違うんだろう?――キラキラな表参道のイメージとはちょっと違う、裏手にある喫茶店でお話を聞きました。
渦中にいると、見えないこと。
――表参道にこんな落ち着く喫茶店があるとは! このプリン、お手本みたいなフォルムですね…
石田さん:ほんと、このプリン最高ですよね(小さなカメラを出してパシャリ)。学校帰りとか、よく来るお店なんです。
――大学4年生ですもんね。カメラはいつから始めたんですか?
石田さん:中学生のときです。ガラケーのカメラの性能が上がっている時期で。それまでは文化祭とか修学旅行くらいしか、カメラを持って外に出ることってなかったんですけど、ガラケーのおかげで毎日写真を撮れるようになって! 「写真って楽しいな」って思ったんです。その流れで中2の誕生日プレゼントに、デジタルの一眼レフをリクエストして、親に買ってもらったのが、はじめてのカメラです。
――ご両親も、あのときカメラを買って本当によかったって思っているでしょうね!
石田さん:どうでしょうね(笑)。母親の家系が全員薬剤師なので、私も同じように「将来は薬剤師になるのかな?」なんて思っていた時期もありました。姉は栄養士なんですよ。特に母親がとにかく堅実なので、友達にも「石田のお母さんにフォトグラファーになるから就職しないなんて言ったら、絶対許してくれないでしょ」って言われていたくらいで(笑)。私自身も就職するかしないかで迷っていたし、自分から両親に将来のことは話さないようにしていましたね。
でもほんとここ半年くらいで、母親に「就職するの?」って言われたんですよ。「えっ、就職しないなんて選択肢が母親の中にあるの!?」っていうのが驚きで!(笑)母も見てくれていたのかなって、なんだか嬉しくなりました。
――それは嬉しいですよね。それから高校時代も写真を撮り続けて。
石田さん:そうですね。私、みんなが楽しそうにしているのを見るのが好きなんです。 友達の誕生日のお祝いをしているとき、放課後に購買で飲み物を買って一生喋ってるとき。そうやってみんながわ〜!」って楽しそうにしているときに、ふと「この瞬間が終わってほしくない」と思ったんです。その輪の内側にいるよりかは、引いて見るタイプだったんですよ(笑)。 集合写真を撮っているところを撮る、みたいな。「そうそう、楽しいよね〜」って思ったりしながら、その瞬間を撮るのが好きだったんです。
――3歩くらい下がって、俯瞰的な視点ですね。
石田さん:そうです、そうです(笑)。渦中にいると、その瞬間って意外と一瞬だったりするし、忘れちゃうなと思って。それって自分がその中にずっといたとしたら、きっと気づけていなかったと思うんです。一度引きで見てみたから、“かけがえのないもの”にも、“時間”にも限りがあることに気づけて。私の中ではその気づきがすごく大きかったです。
――だから石田さんの写真は、見守っているというか、なんだか優しいんですね。
石田さん:見守る…うん、いい言葉ですね。そんな風に言っていただけて、すごく嬉しいです。ありがとうございます。
——なんだかストンと腑に落ちました。お友達も石田さんに撮ってもらえて、羨ましいなあ~。
石田さん:いやそれが、盛れる写真ではないから、友達には全然好まれなくて!LINEのアルバムで写真をみんなで共有していて、私の写真もそこに混ぜて送ってはいたんですけど……結局フィルムだと、肌がキレイに見えないんですよ(笑)。やっぱりデジタルのほうが盛れるし、可愛いから、みんなそっちをインスタの投稿に使うんです。SNOWとかSnapchatも流行っていたので、私の写真なんて全然使わない、使わない(笑)。
センター試験前日のDM。
——そうなんですね(笑)。とはいえ高校時代に写真専用のインスタアカウントを作ってから、仕事の依頼がきたんですよね?
石田さん:最初の頃は制服の写真もあったから、写っている友達の顔が見えないようにして、後ろ姿の写真を中心にUPしていたんです。なんか恥ずかしいですね……こういう昔の話って、あんまりしてこなかったので(笑)。
仕事になったきっかけは、私のインスタをフォローしてくださっていたプロップスタイリストの方から「POPEYEのコラムに出ていただけませんか?」とDMをもらったことです。それがセンター試験の前日の出来事だったので、すごく記憶に残っています。
——センター前日に! そこから私大に進学して、“仕事”として撮影のオファーも受けて。自分が心から好きなことが“仕事”になることについて、何か感じていることはありますか?
石田さん:好きなことを仕事にすると、嫌なことも増えるって聞いたことがあります。たしかにそれが一切ないわけではないんですけど、趣味のままだったら味わえない嬉しさだったり、楽しさがある。仕事していなかったら出会えなかったような人にも会えますし。もちろん仕事と趣味を別にする人もいるし、どちらのタイプもいるけど、私の場合は“好き”と“仕事”はくっつけたいタイプなので。
――うんうん、よくわかります。でも基本的に仕事相手は年上だと思うのですが、やりづらかったりはしませんか?
石田さん:私、毎回すごい緊張しちゃうんですよ。だからそれがバレないように必死です(笑)。面と向かって話すと考えていることが飛んじゃったりもするので、撮りたいものは事前に考えておいたりもします。ただ逆に考えすぎちゃうと私が求めている自然体な雰囲気の写真とは違って、被写体に何かをやらせている感じになってしまうのも嫌なので。最初・中間・最後だけポイントを決めておいて、ポイントは押さえてるけど、それ以外は相手に合わせます。行間を開けておくというか。
――クライアントのオーダーと、ご自身の撮りたいことの間でせめぎ合いはないですか?
石田さん:ありますね。でもなんだろう、私は昔から雑誌を見るのが好きなタイプだったんです。写真家の中にも自分の作品を全面に出したい人と、仕事として写真を撮るのが好きなタイプと両方いると思っていて。私はその中間なんです。もちろん写真を撮るのは大好きだけど、自分の写真だけで完成するよりも、人の意見が入って、チームで作り上げていくのが好きだったりもして。それが広告や雑誌の楽しさだと思います。自分の中で譲れない部分は伝えるけど、信頼している編集者やデザイナーの「こっちのほうがいいんじゃない?」っていう意見を飲み込むのも、割と好き。
大学1年生で1冊目の写真集を作ったときに、編集者がレイアウトをお願いしてくれたデザイナーが元々大好きなデザイナーで、人としても素敵な方なんですよ。そのときは7000枚の写真を全部渡して、自由に選んでレイアウトを組んでもらいました。
——自分でセレクトせずに!?
石田さん:そうなんです、自分の写真は全然俯瞰できなくて。好きなものを好きに撮ってるから、全部好きなんですよ(笑)。そこからデザイナーさんが140枚くらいを選んでレイアウトを組んでくださって。初めて見たそのレイアウトがすごくよかったんです。だからそんな風に、迷ったときは判断を委ねるのもいいなと。譲れないもの、絶対こっちがいいみたいなものがないわけではないんですけど、私は人と何かを作るのが好きなんだということに気づきました。だからこそ私は商業写真をやりたい。作品と商業写真は別物なので。もちろん作品を作るのも好きだけど、生きていくためにはお金も大事ですよね。
続きは明日UPの第2回に続きます。
撮影/石田真澄 取材/広田香奈 編集/小林麻衣子
※この掲載の情報はJJ12月号を再構成したものです。