アジア人が不利とされているものはいろいろありますがバレエもそのひとつかもしれません。骨格が違う、目の色髪の色が違う、メンタルも違う。でも、ロシアの世界的なバレエ団でひとり、主役を踊る19歳がいます。それが彼女、永久メイ。JJ12月号ではそんな彼女のインタビューを掲載しています。今回はそのインタビュー【前半】をご紹介します。
【PROFILE】
2000年生まれ、兵庫県出身。13歳でモナコ王立グレースバレエ学校に留学。在学中にスカウトされ、卒業後、マリインスキー・バレエ団に入団。マリインスキーはロシアバレエの双璧をなす世界屈指のバレエ団。10代で主役を踊るのは日本人として初。
――JJ読者にも留学を考えている人は多いと思いますが、永久さんが初めてモナコの王立バレエ学校に単身留学したのは13歳(!)。日本に帰りたくならなかったのでしょうか?
私の記憶では毎日のように親に電話して「帰りたい」と泣いていたのですが、親から聞く話では「絶対帰らない!」と泣いていたらしいです(笑)。まだ幼かったし、英語もほぼできない状態、それまで海外に行ったこともあまりなかったので、特に母は「いつでも日本に帰ってきていいよ」と言っていて。でも私は「ここで日本に帰ったら負けだ! 自分に負けるのはイヤだ!」と必死でしたね。モナコに単身留学する前は「これで勉強しなくていいんだ♪ 一日中大好きなバレエのことだけできる」とワクワクしていました。
でも行ってみたら、学校がとにかく厳しくて。校則が40個以上あり、校則違反が重なると退学。寮生活の中で、携帯をいじっていい時間やおやつを食べていい時間まで決められていました。実家から送られてきたものも自分の部屋に置いてはダメ、外出する場所の提出など、とにかく監視されていて…。廊下で会った先生に抜き打ちで「校則その15を述べよ」とテストをされることもありました。レッスン中に「日本語しかできないんなら、帰ったら?」と怒られてもその意味すらわからない。でも怒られているのはわかるから泣いて…。
とにかく言葉がわからないと練習にもならないので、必死に習得していきました。マンガみたいないじめはありませんでしたが、「そんなに練習しなくていいんじゃない?」とか少人数クラスだからこその同調圧力みたいなものはありました。ひとりで練習していると陰口を叩かれるみたいな。「テスト勉強ぜんぜんしてない~」って友達同士で言い合う感じでしょうか。
「日本人って自己主張しないよね」と思われていたので、それをわかって一方的に嫌味を言ってくるコもいました。最初は傷ついていましたが、「相手も色々経験してきているから気にしちゃダメ。自分に集中して、人に合わせる必要はない」と、母にアドバイスされてから強くなれた気がします。
自分の考えを持って練習をして先生に存在をアピールしていかないと「このコはこの程度で満足してしまうんだ」と評価が下がってしまうんです。隠れてお菓子を食べているクラスメイトもいましたが、私はバレエの良し悪しではないところで判断されるのが嫌だったので我慢していました(本当は甘いものも大好きなのですが…)。
今から思うと、厳しすぎるように思えた校則も、自己管理の練習だったんだなと理解できます。バレエでもなんでもそうかもしれませんが、結局は自己管理できないと結果を残せない。だから普段の生活からも、先生たちは判断していたんだろうと思います。
―そしてさらなる転機が。世界5大バレエ団のひとつ、ロシアのマリインスキー・バレエ団の芸術監督からスカウトされた時、監督曰く「とにかく楽しそうに踊っていた」と。
当時はまだ15歳。通常、18歳ぐらいで進路を決めるので、将来どのバレエ団に行くかは何も考えていなかったんです。とにかく踊ることが楽しくて。スカウトされるとは思ってもみなかったので、本当に嬉しかったですね。歴史あるマリインスキー・バレエ団へ行けるとなれば、絶対後悔はしないと思ったので、入団することに迷いはなかったです。
ロシアというまったく知らない場所へ行くことへの不安はありましたが「バレエができるなら行くしかないでしょ」としか思いませんでした。迷った時は親に相談しますが、後悔しない方を選んで、必ず自分で決断しています。マリインスキー・バレエ団ではまずロシア語がわからないのと、多くの団員が付属のバレエ学校の卒業生。同じバレエでもモナコでの踊り方とマリインスキーの踊り方は違います。でも、モナコでのインパクト強めの経験があったので、あまり戸惑いませんでした(笑)。
他人と比べて、傷ついて辞めたいって思うような甘い考えだったら、これから先やっていけないし、普段の練習から実力を発揮できなければ役をもらえない厳しい世界。とにかく練習することでネガティブな気持ちは打ち消すようにしていきました。何より、歴史あるマリインスキー・バレエ団です。憧れていた現役のスターダンサーを近くに感じることができるんですよ!『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』など有名な作品はこの劇場が初演。名だたるスターダンサー達が踊ってきた歴史的な舞台で私も踊れるということがとにかく幸せ。
憧れだったバレリーナの方々からアドバイスを頂くこともあります。外部から来た私を受け入れてくれる優しさと、ストイックに自分に負けない強さがあって、私もそういう女性になりたいと日々感じています。お手本にしたい人達に囲まれている恵まれた環境なんです。
「自分に集中。人に合わせる必要はない。」
ともすると冷たくも聞こえる母の言葉を胸に、海外でひとり闘ってきた少女。「とにかくバレエが好きだから」と笑う姿がとてもしなやかで、とても強くて、とてつもなく美しくて。好きっていいなあ、と思うのです。JJ12月号でご紹介したインタビュー、今回はJJ-NETでもお伝えしました。次回はインタビュー「後半」の様子をご紹介します。
撮影/井上ユミコ ヘア・メーク/佐川理佳(TRON) スタイリング・取材/味澤彩子 編集/小林麻衣子
※この掲載の情報はJJ12月号を再構成したものです。