vol.7 マチュー・ガニオさん & ユーゴ・マルシャンさん
前回ご紹介した、世界最高峰「3大バレエ」の一角といわれ、世界最古のバレエ団であるパリ・オペラ座バレエ団。現在の同バレエ団を象徴するような存在のスターダンサーと若手ダンサーの推しドコロを解説します。
Mathieu Ganio
©James Bort
PROFILE
1984年生まれ、フランス・マルセイユ出身。身長182㎝。元パリ・オペラ座バレエ団エトワールのドミニク・カルフーニと元ローラン・プティ・マルセイユ・バレエ団プリンシパルのデニス・ガニオを両親に持ち、妹・マリーヌ・ガニオもパリ・オペラ座バレエ団員という生粋のバレエ一家。バレエを始める前から公演に出演する両親と共に来日をしていたとか。1992年にマルセイユ国立バレエ学校で学び始め、1999年、パリ・オペラ座バレエ学校に編入し、首席で卒業。2001年にパリ・オペラ座バレエ団に入団。早くからその才能を開花させ2003年にスジェに昇進すると、翌年飛び級をして20歳の若さでエトワールに任命される(この最年少記録はいまだに破られていません)。以来、美しい容姿とフレンチスタイルを体現する、完璧にエレガントな踊りで世界中に熱いファンを持ち、バレエ団の顔として活躍中。
神々しささえある彫刻のように美しいビジュアルと手脚が長くすらりとしたスタイル。すべてのステップやポジションが正確なフレンチスタイルの踊りは優雅でエレガント。他の追随を許さない魅力を持ち合わせ、観客を虜にするのがマチュー・ガニオさんの踊り。“マチュー”とはフランス語で“宝物”を意味するそうで、その名のとおり、バレエ団の、いやバレエ界の宝物ともいうべき存在です。パリ・オペラ座バレエ団の女性ダンサーの中でも、彼と全幕バレエを踊ることを憧れと掲げる人が多く、現在の同バレエ団を象徴する特別なダンサーです。
さりげなくエレガントに役になりきる希代のダンサー
『椿姫』のアルマン役 ©Michel Lidvac
スターダンサーを両親に持ち、バレエ学校を首席で卒業、バレエ団の5つの階級で3つめの「スジェ」から1つ飛び級し最年少で「エトワール」に昇格(階級を上がれないまま退団するほど、昇格は実力と人気が伴わないとかなわない厳しい世界)と、まさにバレエ界のスター街道をひたむきに歩んでいるマチュー・ガニオさん。立っているだけでもノーブルな美しさで回りを魅了する、彼の踊りの魅力は品格に溢れエレガントなことはもちろん、そのさりげなさ。これ見よがしに技を決めたり、ステップを踏んだり、いかにも大技風に踊ることはなく、あくまでも簡単そうに、そして軽やかに役になりきる踊りは、観るものに違和感を与えず、共感を促し舞台の世界にいざない、大きな感動を呼びます。役への洞察も鋭く、演目によってがらりと変わる役作りも賞賛されています。クラシックの演目では王子様のようなまばゆいオーラを、コンテンポラリーでは優美な容姿が引き立てる繊細さと美しい体のラインで魅せる多彩さも魅力。42歳での定年が決まっているパリ・オペラ座バレエ団、現在39歳である彼が、同バレエ団で活躍する姿は貴重なものとなっています。
Hugo Marchand
©James Bort
PROFILE
1993年生まれ、フランス・ナント出身。身長191㎝。9歳でバレエを始め、2007年にパリ・オペラ座バレエ学校に入学。同学校卒業後の2011年、パリ・オペラ座バレエ団に入団。2014年、歴史あるヴァルナ国際バレエコンクールにて第3位に。順調に昇進し2017年3月の日本での来日公演中にて『ラ・シルフィード』のジェームス役を踊った後、エトワールに任命される。その後、バレエ界のアカデミー賞と称される「ブノワ賞」にノミネート。2021年には自身の回顧録となる著書『ダンサー』を出版。長身で麗しい容姿を生かし、ルイ・ヴィトンの広告キャンペーンやファッションモデルとして雑誌に登場するなど、幅広く活躍中。公式インスタグラム
パリ・オペラ座バレエ団においても飛び抜けて高い191㎝という長身で踊るダイナミックかつ精確性に優れたクリアな足さばき。足音のしない柔らかな着地。そして大柄な体躯を生かした安定感のあるリフトやパートナリング。今年30歳になり、バレエ団の中で中堅エトワールとして華々しいキャリアをもつ人気ダンサーが、ユーゴ・マルシャンさんです。
進化した踊りにはダイナミズムと繊細さが同居
ウィリアム・フォーサイスの『ブレイク・ワークス』。
ジェンダーレスで優雅な男性ダンサーが多いパリ・オペラ座バレエ団の中で、ひときわワイルドで長身のユーゴ・マルシャンさんは唯一無二な存在。2014年にヴァルナ国際バレエコンクールで3位を受賞してからエトワール級の役を任され、エトワール6年目と思えない華やかなキャリアと優しい大型犬のような風格をもちます。大柄なのに軽やかで精確な足さばきとポジション、跳躍力もさることながら柔らかく音のしない猫足着地と、ダイナミズムと繊細さが両立した目の覚めるような踊りは、新しい役を踊るたびに本国フランスでも話題となるほど。パートナリングも抜群で、彼と踊ることの多いエトワールのドロテ・ジルベールは「役柄をしっかり捉えてくれているから、あえてエモーションを出す必要がない。快適に踊れるパートナー」と絶賛しています。その肉体美と艶っぽさを生かしたコンテポラリー演目にも定評が。2023年4月には自身初でありいつか踊りたいと言っていたモーリス・ベジャールの『ボレロ』のメロディ役を踊り、さらなる成長と進化を続けています。
マチュー・ガニオ&ユーゴ・マルシャンの姿が見られるのは……airweave presents『ル・グラン・ガラ2023』~マチュー・ガニオとドロテ・ジルベールからの贈りもの~(2023年7月31日~)
2018年、2019年に続いて3回目となるパリ・オペラ座バレエ団のスターダンサーが集う豪華なガラ公演。今回は、マチュー・ガニオと同じくエトワールの人気女性ダンサーであるドロテ・ジルベールが、公演の構成などを自らプロデュース。前回も出演したアマンディーヌ・アルビッソン、レオノール・ボラック、オードリック・ベザール、ユーゴ・マルシャンなどの他にシュツットガルトバレエ団の貴公子、フリーデマン・フォーゲルや、バレエ団期待の新人で日本人の母をもつクララ・ムーセーニュなど、多彩な顔ぶれの競演が実現。マチュー・ガニオはAプログラム(7月31日、8月2日~東京文化会館)、『ソナタ』Bプログラム(8月2、3日~東京文化会館)、『オネーギン』『ヴィヴァルディ・パ・ド・ドゥ』に、また、ユーゴ・マルシャンはAプログラム『ル・パルク』『イン・ザ・ナイト』、Bプログラム『うたかたの恋 マイヤーリンク』などに出演予定。詳しい演目、時間などは公式ホームページをご確認ください。
取材・文/味澤彩子