6月29日の東京ドーム公演をもって解散する女性6人組アーティスト「BiSH」。2022年に入ってからも、12カ月連続シングルリリース、計3本の全国ツアー、大阪城ホール・富士急ハイランド・横浜アリーナ・代々木第一体育館といった大会場でのライブなど、注目を集め続けている。
解散を目前に”WACKの副社長”ともいわれるBiSHのセントチヒロ・チッチに、BiSHの進化と”終わり”への覚悟を訊いた。
「もともとは”新生クソアイドル”って名乗っていましたけど、メジャーデビューするときに『”楽器を持たないパンクバンド”BiSH』になりました。
その頃から対バンや音楽フェスでバンドさんと一緒にライブをするようになったんですが、『”楽器をもたない”ってなんだよ』って言われることも多くて。BiSHはバンドサウンドでパンクやロックの楽曲をメインにやってはいたけど、『それはそうだけど』と当初はイロモノ扱いされていました。
でも私たちはバンドの世界に片足突っ込んでいるわけだから、『生ぬるい感じでいかないようにしたいな』とすごく思っていて。だからどんな場所でも『BiSHはBiSHらしく』というのを大事にして、自分たちでも言うようにしていました」
そこから、”バンド”としての試行錯誤が始まった。
「私たちにしかできないことって何なんだろうとメンバーと考えたら、『ライブ中に踊ることは、楽器を持っている人にはできないよな』というところに行き着いて。それで踊りを私たちの強みにしていこうと決めて、肩から上に手を上げる振り付けを増やしたり、ライブでお客さんと一体感を出すことを最優先に振り付けを考えていきました。
あとは煽り文句を考えたり、メンバー全員でライブを盛り上げる工夫をするようになって。知名度や楽器を演奏する力はないけど、フェスや対バンに出ても知らないお客さんたちを巻き込む力は、もしかしたら他のバンドよりあるんじゃないか――メンバーで話し合ってそう答えを出したので、そこは特に頑張りました」
デビュー当時、グループは”2人”のメンバーを中心に進んでいた。
「全員が意見を対等に出し合えるようになったのはだいぶ後のことで、この頃はアイナ(・ジ・エンド)や私がよく喋ってたイメージがあります。ほかのみんなは、私たち2人に寄り添ってくれていました。
私とアイナは、BiSHの”心臓”と”脳”のような感じ。私はよく、みんなから”心臓”に例えられるんですが、それは特攻隊長みたいな役割をすることがあったり、BiSHとしてのあり方や先の方向性を提示したから。アイナは、ダンスを考えたり細かい表現ニュアンスを技術的に考えてくれるから”脳”です。そこに他の4人が肉づけしてくれる形で進んできました」
一方チッチは自身のチーム内での役割について、違う見方もしている。
「BiSHの中での私は、”お父さん”であり、”お母さん”だと思っています。”お父さん”は、大黒柱としてみんなを支えて引っ張っていかなきゃいけないし、みんなの意思を代表して伝える必要がある。戦闘機1号として最初に物事にぶつかっていかなきゃいけないし、いろんな人と外交しているところも”お父さん”だなと思っています。私は昔から、BiSHを知ってほしいなと思って対バンの打ち上げには必ず参加していました。
“お母さん”は、みんなのケア役。今はみんなそれぞれ、いろんなことを相談できる相手がいると思うんですけど、以前はメンバーが迷ったときに、どう考えたらいいかということから一緒に考えていました。私は”してあげる”ことが好きでそういう機会も多かったので、”お母さん”にもなれたらいいなって。
たとえばですか? うーん、ご飯を作ってあげるとか(笑)。アユニが上京したてのときに、よく作ってあげたりしました。今はカレーを作って現場に持っていくとみんな喜んでくれるので、たまに手作りの差し入れを持っていきます」
「私個人はいつでも納得してない」BiSH解散まで大切にしたいことは?
デビュー当時から大事にしてきた”BiSHらしさ”は、ある時期から次第に形を変えていく。
「当初は『BiSHらしさは破天荒さ』と考えていたんですけど、活動を続けていくうちに思うようになったのは、『BiSHらしさは別にない』ということ。”BiSHらしさ”はメンバーそれぞれが思う6人6通りあるし、もっといえばお客さんの数だけあります。だから、それぞれが考える”BiSHらしさ”が正しいと思うんです。
考え方が変わったのは、『NON TiE-UP』(シングル/2018)を出したくらいから。カウンターカルチャー的な曲を出すようになって、表現でも破天荒だって言われることが多くなっていたのですが、『BiSHにはすごくいい曲があるし、メンバーにも破天荒イメージとは違う良さがあるのにな』って思っていました。
もちろん”いいところ”を見てくれてる人もいましたけど、お客さんが言ってくれる”BiSHの良さ”が会話でもお手紙でも本当にバラバラだったのを体感して、気づいたんです。『BiSHって、こんなにいろんな顔があるんだ。じゃあ、”らしい”って何だろう? いくらでもあるじゃん』って。
BiSHらしさとして挙げられるものはたくさんあるけど”正解”はない…というか、正解を決めちゃったらつまんないなと思っています。一方で、たぶん私たちの”らしさ”って、『BiSHはBiSHでしかない』と思っているところ。メンバーとは『中身が昔から変わってないところが、うちらの”らしさ”だよね』と話しています」
“らしさ”が多様なところも含めてBiSHが好き――メンバーも、「清掃員」と総称されるファンも、その存在感を唯一無二のものとして受け止めるようになった。
しかし2021年12月24日、”終わり”は突然、世界に姿を現した。
公式YouTubeチャンネルでの生配信と、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)で早朝から同時中継された緊急ライブ『THiS is FOR BiSH』で、2023年をもって解散することをチッチが発表。同日配信された公式YouTube動画『BiSH iS OVER!-解散の真相-』では、2019年11月に解散が決定していたことが明かされた。
「私は最初に渡辺(淳之介/WACK代表)さんから解散を提示されたとき、素直に解散したくないと思いました。『え…何で?』って。グループとして絶頂にいるときに解散するのが一番カッコいい――渡辺さんの言っていることはわからなくもないけど、『カッコよさって、そもそも何が正解かわかんないじゃん!』って思いました。
私が好きなバンドは長く続けてきた中にストーリーがある人たちが多かったので、私は続けることもすごくカッコいいって思うタイプで。だから個人としては全然、納得していませんでした。
私1人に聞かれ続けていたらずっと反対していたと思うんですけど、『お前らに任せる』って言われちゃったからメンバーで話し合うことになって。そしたら最終的に、私以外のメンバーが納得していたんです。私はそのときも『マジか!? いいの??』って思ったんですけど、みんなはわりと大人で先を見据えていて、私が一番子供でした。
すごくたくさん考えて、BiSHは私1人じゃなくて6人でBiSHだから、みんなが解散を選ぶなら私もその意見を受け入れるしかないなって。そこからは『じゃあ解散するっていう選択をしたあと、何をしていけるか考えるしかないな』って思うようになりました。だから納得はしてないんです、いつでも」
残りわずかな期間、BiSHとして何を大切にするのか。
「解散を発表してからはずっと忙しいですし、コロナ禍もあった。本当に何が起こるかわからないですよね。だから今すごく思うのは根本的なことなんですけど、『誰ひとり欠けずに健康で走り続けたい』かな。
目の前の人たちやライブの一つ一つを大切にして愛情を届けていくことや、目の前のことに全力で向かっていく姿勢は何ひとつ変わっていないので、みんなが元気に楽しんで解散したいなって思っています」
たくさんの”前人未到”を記録し、WACKの歴史そのものを築いてきたBiSH。チッチにとって、いちばん達成感があった瞬間は?
「いっぱいあるんですけど……私はアユニ(・D)が入ってきて今の6人が揃ったとき、ですかね。正確に言うと、アユニが入って(日比谷)野音でライブをしたときにパズルのピースがはまったように感じて、『これ以上ないメンバーでBiSHになれた』という充実感がありました。
野音より大きな会場でたくさんライブをさせていただいていますが、キャパの問題じゃなくて、『この6人でやっていく』ということが体感できたから。そういうふうに思えたときって、他にはなかったので」
◉チッチも出演する所属事務所初の公式雑誌「月刊WACK」の予約はコチラ
※6月11日(日)23:59まで
profile/セントチヒロ・チッチ(せんとちひろ・ちっち)
2023年6月29日の東京ドーム公演をもって”楽器をもたないパンクバンド”BiSHで、2015年の結成時から活動中。グループではリーダー的な役割を果たす。音楽、ファッション、フィルムカメラ、カレーと趣味は多岐にわたり、スパイス探求番組『スパイストラベラー』(フジテレビNEXT)でMCを務める。またソロアーティスト「CENT(セント)」としても活動中。2ndデジタルシングル『すてきな予感』が好評配信中。
Twitter:@Chittiii_BiSH
Instagram:@cc_chittiii_bish
写真・Takuya Iioka
ヘアメーク・Chigira[RIM]
ロケーション協力/Studio Clara[ADDICT_CASE]
※「月刊WACK」は6月11日(日)23:59まで公式サイトで予約受付中