vol.17 K-BALLET TOKYO 25周年記念シーズン初演『マーメイド』
©︎Yoshitomo Okuda
英国ロイヤル・バレエ団で日本人初のプリンシパルとして活躍していた熊川哲也さん。満を持して帰国し、自身が主宰・芸術監督を務めるバレエ団「K-BALLET TOKYO」を創設してから25年。これまで力を入れてきたのが、数々の古典バレエの改訂のほかに、完全オリジナル作品の制作。『クレオパトラ』『蝶々夫人』『ベートーヴェン 第九』『カルミナ・ブラーナ』『クラリモンド~死霊の恋~』などに続き、今回手がけたのが『マーメイド』。アンデルセン童話として、子どものころから誰もが慣れ親しんでいるこの作品に新風を吹き込み、新たなグランド・バレエ作品としての地位を確立したと言われる新作の見どころを紹介します!
K-BALLET TOKYOの人気ダンサーが総出演する豪華なキャスティング
©︎Yoshitomo Okuda
「バレエに興味があるけれど、どの公演、どのキャスティングで観に行けばいいかわからない」――
そんなバレエ初心者にもおすすめのこの公演。主役はもちろんのこと、脇役までもプリンシパルが固め、K-BALLET TOKYOオールスターともいえる豪華さ。この連載『王子様の推しドコロ』で過去に出演してくれた、プリンシパルの堀内將平さんやプリンシパル・ソリストの栗山 廉さんは、プリンスを踊る日以外でも王子の友人役でも登場します!
原作はもちろんアンデルセンの『人魚姫』。セリフがないから展開がわかりづらいとも言われるバレエですが、大人でも楽しめる切なくドラマティックな演出が加わってるものの、よく知られている作品の軸は変わらないので、バレエを見慣れていない人でも作品に没入できるはずです。
瞬時に作品に引き込む舞台美術と衣装で、非日常の世界に
©︎Yoshitomo Okuda
絵本やアニメで幼いころ何度も想像したような美しくも儚い世界観が、完璧にそしてファンタジックに再現されているのが本作。見た瞬間に観客を作品に没入させ非現実的な世界へといざなう魔法のよう。海の上と下で生息する魚たちが違ったり、想像もしないような方法でクジラが表現されたり、繊細でありつつ大胆な演出で観客を魅了します。
舞台だけでなくテーマパーク、万博などの空間デザインを手がける日本を代表する舞台美術家・二村周作さんによる舞台芸術。「現代美術などを見て、海や水の世界はどんな表現がなされているのかリサーチするところから始め、バロック様式に使用されているトリックにヒントを得ました。“今までに見たことがない世界”だけれども『これはまさしく”マーメイド”の世界』と感じていただけたら嬉しいです」
メルヘンで心浮き立つようなデザイン性とモダンでこなれた色彩のバランスで、唯一無二な存在感を放つアンゲリーナ・アトラギッチさんが衣装を担当。「長い時間をかけてあらゆる海の生き物を研究しました。キャラクターを表現するうえで、適切な色と生地を選択することはとても重要。人魚たちには、魚のウロコや水面の光の反射を思わせる色彩と質感のものを選びました。水の中の世界は色彩とフォルム豊かに、人間の世界は感情のない、秩序が支配する社会の冷たさを強調するために寒色系の衣装にし、それぞれの世界に大きな違いを持たせています」
第一幕は心弾むファンタジーな世界、第二幕はドラマティックなラブストーリー
©︎Yoshitomo Okuda
大人もしっかり見ごたえのあるグランド・バレエとして制作された『マーメイド』。ヤドカリ、シャーク、トビウオ、ロブスターなどの愉快なキャラクターたちの登場、魚を完璧に優雅に体現した振付や衣装、海の景色、次々と息つく暇もなく超絶技巧が展開されるスピーディな展開……。「次は何が見られるの⁉」と、ワクワクと好奇心が刺激され、楽しさ溢れる第一幕。
そして、第二幕は誰もが切なくなるラブストーリーが主軸に。はじめは夢見がちで純真無垢だった人魚姫が、恋をしたことで自分の命もかけたその覚悟、そうとは知らずに人魚姫を爽やかに振り回すプリンス、プリンスの愛を勝ち取ったプリンセス。喜びや悲しみが入り混じる展開から、ドラマティックなラストの演出にぎゅっと心が締め付けられるはずです。
©︎Yoshitomo Okuda
K-BALLET TOKYO 25周年記念シーズン初演『マーメイド』
時代を超えて愛される、あのアンデルセンの名作『人魚姫』がグランド・バレエに。ファンタジーで壮大な世界観、楽しい海のキャラクター、ドラマティックなストーリー展開。老若男女、バレエファンもそうでない方もすべての人が楽しめ、感動に導く名作です。9月8日からスタートした本公演ですが、残る公演は9月28日(土)、9月29日(日)、10月4日(金)~6日(日)、いずれもBunkamuraオーチャードホールにて。詳しくは公式ホームページまで。
取材・文/味澤彩子