
『ジゼル』より
バレエ大国と言われるウクライナ。毎年、年末年始に来日し、150年以上の歴史を持つ劇場の伝統的なクラシックバレエの公演で私たちを魅了し続けるのが「ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)」です。今年は、ウクライナ国立歌劇場からバレエ公演だけでなく、オペラ公演、オーケストラ公演、クリスマスコンサートなども行われ、オペラ、バレエ、管弦楽、合唱、すべてが来日するので、日本にいながらウクライナ国立歌劇場のすべてのジャンルを楽しむことができる特別な年。今だからこそ、ウクライナ国立バレエを見る理由をJJnet独自の視点でご紹介します!
実は芸術監督が日本人という、日本と縁のあるバレエ団

©瀬戸秀美
150余年の歴史をもつ名門劇場で、日本人初の芸術監督としてウクライナ国立バレエを率いるのが寺田宜弘さん。バレエ教師の両親の元に生まれ、11歳で単身キーウに渡り、キーウ国立バレエ学校で学び、2012年には同校の芸術監督に。2022年12月にはウクライナ国立バレエの芸術監督に就任し、昨年はMBS『情熱大陸』での特集でも注目を集めました。
2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が突如始まり、バレエ団のダンサーの多くもヨーロッパ各地に避難し、劇場の存続も危ぶまれた中、それまで毎年行っていた日本公演を継続することが「希望を持つことになる」というダンサーたちの声を受け、2022年7月にヨーロッパ各地にいた団員をまとめて、奇跡とも言われた日本公演を寺田さんが実現!それ以降も、来日公演を毎年続けています。
ロシア侵攻によりウクライナでは、3大クラシックバレエと呼ばれる『白鳥の湖』『眠りの森の美女』『くるみ割り人形』を作曲したチャイコフスキーや、『ロミオとジュリエット』『シンデレラ』などを作曲したプロコフィエフほか、ロシア人作曲家の演目や彼らの曲目を含んだ作品や演奏を取りやめています。しかし、ウクライナ国立バレエは困難な状況な中でも、名作をリニューアルしたり新作にも挑戦して、新たな時代を築き上げています。今回の来日では『ジゼル』『ドン・キホーテ』『雪の女王』を上演予定で、東京を皮切りに全国14都市、18公演披露します!
新作『ジゼル』は、ウクライナと日本の友情の証し
©瀬戸秀美
日本のファンからの義援金によって新たに制作されたのが、今回上演される新版の『ジゼル』。本作はパリ・オペラ座バレエ団で1841年に初演された、ロマンティック・バレエの代表的な作品。悲恋を描いた物語で有名なラストシーンがありますが、ウクライナ国立バレエによる新制作の『ジゼル』は、ラストシーンに新たな演出がされていることが見どころのひとつです。「人間にとって愛の尊さを問い直す『ジゼル』。これは私たちから日本の皆さんへの感謝であり恩返しです」という寺田芸術監督の想いもこもった結末は、心の深いところを揺さぶり、感動に包まれます。
2025年の来日公演には英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル、リース・クラークさんが『ジゼル』にゲスト出演

『ジゼル』にてアルブレヒトを踊るリース・クラークさん

『ジゼル』にてジゼルを踊るクリスティーン・シェフチェンコさん
『ジゼル』には、以前この連載でも取り上げた英国ロイヤル・バレエ団きっての王子様ダンサー、リース・クラークさんがゲスト出演(12月27日の17:30公演)。191㎝の体躯を生かし、時にはモデルとして広告に登場することもある、スケールが大きいラインの美しい踊りが魅力的なダンサーです。
今回は、アメリカン・バレエシアターでプリンシパルとして活躍する、ウクライナ生まれのクリスティーン・シェフチェンコさんとの共演を日本で初披露! シェフチェンコさんは幼少期に体操選手を目指したこともあり、研ぎ澄まされたテクニックと表現力を持っています。アメリカとイギリスのスターダンサーがウクライナ国立バレエの日本公演で共演する貴重な公演とあって、どんなケミストリーが生まれるのか話題を呼んでいます。
リース・クラークさんの過去記事はこちら
日本が生んだ世界的ダンサー、菅井円加さんが主演する『ドン・キホーテ』!

『ドン・キホーテ』にてキトリを踊る菅井円加さん
高校2年生で出場した名門ローザンヌ国際バレエコンクールで、熊川哲也さん以来の快挙となる1位に輝き、一躍時の人となった菅井円加さん。現代最高の巨匠といわれる振付家、ジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエ団のジュニアカンパニーを経て、同団に入団。2025年の夏に11年間在籍したハンブルク・バレエ団からボストン・バレエ団に移籍しました。難易度の高い技を簡単そうに踊りこなす驚異的なテクニックと全身から放たれる華やかな情熱で見る者を虜にし、グローバルな活躍が目覚ましい彼女の全幕での踊りが見られるのは、またとない機会です!
2025年1月のウクライナ国立バレエの来日公演では『ジゼル』にゲスト出演した菅井さん。その公演では、バレエファンが漫画の中だけで成立すると考えていた“ポワントでパンシェ”という大技を決め、奇跡を起こした!と話題に。今回も、彼女ならではの奇跡の瞬間を目撃できるかも⁉
ここでしか見られない、ウクライナ国立バレエのオリジナル演目『雪の女王』

国民が気軽にクラシックバレエの公演を観に出かけるウクライナにおいて、冬の風物詩として愛されている、ここだけでしか見られない珍しいオリジナルの全幕作品『雪の女王』。ディズニーアニメ『アナと雪の女王』の原作にもなっているアンデルセン童話を基にしたストーリーで、J.シュトラウスやJ.マネスなどの聞きなじみのある楽曲が使用されていて、色彩豊かな舞台に数多くのキャラクターが登場する、大人だけでなく子供も楽しめる冬にぴったりのメルヘンな作品です。
『アナと雪の女王』は脚色が強いですが、ウクライナ国立バレエ版『雪の女王』は原作に忠実。雪の女王が作った鏡の破片が刺さってしまい性格が豹変した少年、カイ。雪の女王にさらわれたカイを幼なじみの少女、ゲルダが探しに行き、雪の女王の宮殿にたどり着くが……。多彩な登場人物と展開、そして舞台装置に、2時間があっという間に過ぎてしまう、ウクライナ国立バレエでしか見られないレアな公演です!
ウクライナ国立歌劇場から、オペラ、管弦楽団、合唱団も来日

ウクライナ国立バレエの公演を鑑賞すると驚かされるのは管弦楽団のレベルの高さ。今回は、評判の高い管弦楽団だけでなく、オペラと合唱団も来日し公演を行います。オペラは『アイーダ』『トゥーランドット』、管弦楽団・合唱団は『第九&運命』、さらに12月20日(土)には管弦楽団によるクリスマスコンサートも予定されています。なかなか見るチャンスの少ない東欧の歌劇やオーケストラ。この機会を見逃さないで!
詳しくはそれぞれのホームページ(オペラhttps://www.koransha.com/ballet/ukraine_opera/、管弦楽団・合唱団https://www.koransha.com/orch_chamber/daiku/、管弦楽団クリスマスコンサートhttps://www.koransha.com/orch_chamber/Xmas_specla/)をご確認ください。

ウクライナ国立バレエ『雪の女王』『ジゼル』『ドン・キホーテ』(2025年12月6日~/14都市18公演予定)
今なお戦禍が続くウクライナ。その地で150年以上の歴史を受け継ぎ、多くのスターダンサーを輩出してきた「ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)」は、世界屈指の芸術性を誇るバレエ団です。厳しい状況下でも舞台のクオリティを揺るがせない原動力となっているのは、ダンサーひとりひとりの高い表現力とプロ意識。主役を務めるソリストだけでなく、団全体の底力が高く、コール・ド・バレエの完成度の高さも大きな魅力です。舞台の華やぎと迫力を生み出す気概がある、その姿勢は毎回の公演から伝わります。戦時下にあっても進化を止めず、ウクライナが育んできた美しく伝統的な芸術を守り続ける歌劇場の強い意志。それを目の当たりにすると、どの演目を観てもきっと自然と胸が熱くなります。
年末年始、ライブならではの高揚感と優美な芸術に心を委ね、非日常の世界に浸りたい方へ。ウクライナ国立バレエの舞台は、まさにその願いを叶えてくれる“特別な時間”です。2025年12月21日(日)『雪の女王』東京国際フォーラム ホールA、12月27日(土)『ジゼル』東京文化会館、2026年1月3日(土)『ドン・キホーテ』東京国際フォーラム ホールAの東京公演ほか、12月6日から全国14都市でツアー予定。詳しくはホームページにてご確認ください。
取材・文/味澤彩子





