自国語を話したりする分には、あまり文法は意識しないものです。
ちゃんと使えるのが当たり前と思っているかもしれませんが、仕事でのメールや文書では思いがけず文法ミスをしていることも……。
そこで今回はビジネスにおいて使うと恥ずかしい表現をピックアップ。ミスを犯してしまっていないか、チェックしてみましょう。
(1)ら抜き言葉
「ら抜き言葉」は、日本語の乱れの代表格。
本来なら「食べられない」としなくてはならないのに、「食べれない」としてしまうこと。
文法上、「ら」が必要なのに、「ら」が抜け落ちてしまった表現のこと。
「私がここまでやって“来れた”のは、支えてくれた皆さんのおかげです」
「サイトが“見れない”ようであれば、お知らせください」
このような文を目にしたことはありませんか? それぞれ「来られた」「見られない」と書くのが正確です。
最近では、ら抜き言葉は許容されつつあります。
ただ、ビジネスメールや文書などにら抜き言葉が出てくると、違和感を覚える人が多いものです。
書き言葉は落ち着いて見直せるはずですし、後に残ります。
話し言葉よりも正確に文法を用いるようにした方がいいですね。
(2)くだけた語尾
本来は「知っている」と書くべきなのに、「知ってる」と表記している例を見かけます。
確かに、口ではそう発音するかもしれませんが、ビジネス上での書き言葉では正確に書くようにしましょう。
他にも避けたほうが良い語尾として、
×それじゃ(あ)
〇それでは
×しちゃう
〇してしまう
×やっといた
〇やっておいた
といった語尾に注意しましょう。
(3)主述のねじれ
「決定権は、山田課長です」この文、なんだかモヤモヤしませんか?
その違和感の原因は、主述のねじれ。主語と述語がかみ合っていません。
決定権=山田課長、ではないですよね?
「決定権は、山田課長です」は、以下のように改めるべきです。
〇決定権は山田課長にあります。
〇決定権を持つのは(持つ人物は)山田課長です。
特に多く見られる間違いは、次のようなパターンです。
×長期的な目標は、海外で仕事をしたいです。
〇長期的な目標は、海外で仕事をすることです。
〇長期的には、海外で仕事をしたいです。
×安さの秘密は、製造コストをカットしている。
〇安さの秘密は、製造コストのカットだ。
〇安さの秘密は、製造コストをカットしていることだ。
なお、この主述のねじれは、文が長くなるほど生じやすいものです。
ビジネス文書においては、一文一文を短くし、箇条書きを取り入れるなど、ねじれが生じないよう注意しましょう。
(4)不正確な活用
「田中さま“みたく”なりたいと思って努力してきました」
これは活用が不正確です。
活用というのは、動詞や形容詞、形容動詞、助動詞の語尾が後ろに合うよう変わること。
例文は、助動詞「みたいだ」で、「~だ」と言い切る言葉です。
形を変える場合、「だろ、だっ・で・に、だ、な、なら、〇」という表に従い、正確には、「田中さま“みたいに”なりたいと思って努力してきた」という変わり方をするはずです。
(5)助詞が不適切
助詞というのは、「私“の”」「私“が”」のように、名詞などの下に付く語です。
一見おまけのように見えますが、実は文のニュアンスを大きく左右しています。
例えば、次の文を見比べてみましょう。
【が】例の企画が成功した。
【は】例の企画は成功した。
一文字違うだけで、ニュアンスに違いが生まれています。
どちらも「例の企画」の成功を伝えていますが、「例の企画は成功した」の方は、それ以外の企画の失敗がうかがわれます。
それは、「は」に、多くの事柄から一つを選び出して強調するニュアンスがあるから。
あえて「は」を使ったのであればOKですが、特に意図もないところで、変な“匂わせ”にならないよう注意しましょう。
陥りやすい文法ミスをピックアップしました。
文法ミスは、文章自体の信頼性にかかわるものです。
余計な不安や誤解を与えないよう、細部まで気を配るようにしてくださいね。
文/吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで講師を務める他、『テストの花道 ニューベンゼミ』(NHK Eテレ)に国語の専門家として出演するなど、メディアでも活躍中。東京大学教養学部卒。
画像/PIXTA(ピクスタ)(Pangaea、Mills、shimi、Fast&Slow、metamorworks) 参考文献/吉田裕子著『人を動かせる人の文章のキホン』(すばる舎)
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