2017年のお台場ウォーターパークの空間演出に始まり、RingoRingやTapistaのプロデュースなど、若きヒットメーカーとしてメディア露出が増えている辻さん。
多くのヒット企画を生み出している辻さんが、学生社員として働きはじめたきっかけを聞きました。
1995年生まれ。東京都出身。中高時代をイギリス、スイス、アメリカで過ごし、大学入学を機に帰国。慶應義塾大学環境情報学部在学中に、学生社員として株式会社エードットに入社。独自の世界観の表現を通じて、F0・F1層向け(10~20代女性)を中心に、様々な分野での企画とデザインを手掛けている。
「誰か早く、私を見つけてくれ! 」って 思いを抱いて、頑張っているコが 同世代にはたくさんいると思うんです
―辻さんの経歴で驚いたのが、小学6年生のときに自ら留学先を探して、実際に14歳で渡欧したというお話でした。そこまで思い切った決断ができた理由が知りたかったんです。
その当時は、単純な好奇心だと思います。小学校は幼稚園から大学まで続く一貫校に通っていて、よく言えば「温かい」、悪く言うと「生温い」環境で育ってきました。元々好奇心旺盛なタイプだったのですが、学校に通っていて新しいものを吸収する感覚がほとんどなくて。
両親が共働きだったこともあって、留守番をしながらひとりで考え事をする時間が多かったのですが、そういう時間に沸々と考え始めたのがきっかけです。今考えると、私たちの世代って 「誰か早く、私を見つけてくれ!」って思いを抱いて、何かに頑張っている同世代のコがたくさんいると思うんです。ジャスティン・ビーバーとYouTubeみたいに。
どんな分野で頑張るのかもわかっていなかったけど、そういうことを中学生ながら求めていたんだと思います。あの頃は「誰か早く」ってすごく思っていて、焦燥感という言葉では言い表せない葛藤みたいなものがあった気がしますね。
それと、一貫校だと接する人がなかなか変わらないのでどんどん自分の世界が狭まるのに気がついて、単純に新しい世界を見たいなと。アクセルを踏む瞬間までは意外とビビりなんですけど、「ここ!」って思ったところでは躊躇なく踏めちゃうのが私なのかもしれません…。
―そういう「何者かになりたい」みたいな意識が、辻さんの中に芽生えたのはいつ頃ですか?
ぼんやりとそういう感情が出てきたのは、留学を考え始めた頃です。幼い時から集団行動が得意な方ではなくて、宿題の質問文自体に疑問を感じるコだったんです。もし自分が頑張ることで何かを伝えられるポジションにいけたとしたら、同じように生き辛さを抱えている人とか、同じ思いを持っている人と繋がれるかもしれないという感覚が強くて。
それが、「何者かになりたい」って気持ちに繋がったんだと思います。いざ海外に行ってみると、最初の留学先のイギリスは英語を学ぶことで精一杯で。スイスではカルチャーを学んで、そこで今の自分のルーツになっている価値観みたいなものが構築されました。ただそのときはクリエイティブディレクターという職種も知らなかったし、アーティストになりたいとも思っていなかったです。
「何かを作りたい、自分の中にあるものを表現したい」というすごく漠然としたもので、その「何か」もわからず、早くそれを見つけて、実現する技術を得たいっていう焦りは、大学に入ってからもずっと続いていました。
―「何か」を探し続けた日々から、広告業界に足を踏み入れたきっかけは何だったのですか
社会に対してメッセージを届けようとしたときに、広告が成し得る力って想像しているよりも大きいんじゃないかって思ったのがきっかけです。だから広告業界に行きたいっていうのは漠然とあったんですけど、映像クリエイターじゃないし、グラフィックを作れるわけでもない。
「何者なんだ、私は」って。アイデアはあるけど、それを自分では形にできないみたいなコンプレックスがずっとあって。逆に今は、それが仕事に生きているなとは思うんですけれど。
―そういう状況の中で、今働いているエードットにはどんな経緯で入社したんですか?
ある日、父の仕事にのこのことついて行ったのがエードットとの最初の出会いです。そこで代表の伊達に出会ったのですが、まるで太陽みたいな人で、「あんまりこういうタイプの人に出会ったことないな、一緒に働きたい」と思って、その日のうちにメールでインターンがしたいと直談判しました。
インターンを始めて2週間後には学生社員として入社したのですが、もともと、なにか職能を持って入社したわけではないので、100本ノック状態で上司に企画をぶつける毎日(笑)。
営業の人には、「カバン持ちでもいいから連れて行ってください」ってお願いしてみたり…。そういう場所で自分がわかることをウワァーって喋っていく中で、徐々に仕事を任せてもらえるようになりました。
―「辻さん=ヒットを連発するプロデューサー」というイメージがあると思うのですが、ご自身の中でヒットを生み続けている感覚はありますか?
あ、全然ないです。うれしいなと思うのは、ヒットしたことよりも、実際に自分の作ったものが人に喜んでもらえたかどうかなんですよね。SNSで自分が作ったハッシュタグをフォローして延々と追うんですけど、そこで子供を撮った写真をアップしてくれていたら「可愛い♥」ってなって待ち受け画面にする…みたいな(笑)。
そうやって、自分の作品が 愛沙子の手を離れて誰かのものになっていく瞬間をみるのが好きなんです。 もちろんヒットしてクライアントさんが喜んでくれたらなおのことうれしいですけど。
これまでは空間演出に多く携わってきたので、そういう風に喜びを感じることが多かったのですが、最近は「自分がそれをやることで社会がどう前に進むのか」が私の新しい軸になっているので、喜びを感じる瞬間も少し変わってくるのかもしれないなと思っています。
【次回予告】
同世代の女子が反応する企画を生み出してきた辻さんが、「世の中にあふれる不均衡がすごく嫌」で始めたというLadyKnowsの活動について詳しく語ってくれます!
撮影/熊谷直子 取材/大塚悠貴 編集/岩谷 大
※掲載の情報はJJ12月号を再構成したものです。