2017年のお台場ウォーターパークの空間演出に始まり、RingoRingやTapistaのプロデュースなど、
若きヒットメーカーとしてメディア露出が増えている辻愛沙子さん。
そんな辻さんが、フェミニズムやジェンダーを考えるメディア「Ladyknows」をはじめたきっかけや、そこに込める思いを語ってくれました。
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タピスタの生みの親! 辻愛沙子さんが「学生社員」になったきっかけとは!?
1995年生まれ。東京都出身。中高時代をイギリス、スイス、アメリカで過ごし、大学入学を機に帰国。慶應義塾大学環境情報学部在学中に、学生社員として株式会社エードットに入社。独自の世界観の表現を通じて、F0・F1層向け(10~20代女性)を中心に、様々な分野での企画とデザインを手掛けている。
カテゴリではなくて その人自身と向き合っていく 世の中になったらいいな
―辻さんが運営しているLadyknowsは、社会にある女性の問題を同世代に知ってもらおうとする取り組みですよね。
Ladyknowsを始めたのは、世の中にあふれる不均衡がすごく嫌で、カテゴライズされて苦しんでいる人たちってたくさんいるんだろうなと感じたのがきっかけです。
「23歳、女、クリエイティブディレクター」のように分かりやすくカテゴライズをしないと、知らない人には伝わりにくいっていうのは理解できるんですけど、そうではなくてその人のルーツや本質に向き合って生きていく大切さもあるじゃないですか。
スイスの学校にいたときに、日本人は私だけでいろいろな国から学生は集まっていて、普段は英語で喋ってるけど、怒ると自分の母国語になったりして。そういう環境だと学則を作るのが難しいんですよね。
「黒髪」というルールを作れば、誰かは染めなきゃいけないし、「金髪」にしたら私はブリーチしなければいけない。極端な例かもしれないけど、目の前にいる人、それが親友でも恋人でも、親ですら、自分とその人は違う生き物で…。だから違うという前提で人と向き合うことが私の中では当たり前な常識になっていったんです。
―だけどそれって日本にいると常識ではなかったりもしますよね。
あくまで感覚的な問題だけど、やっぱり日本って同じ方向を向いて頑張ろうって文化があるような気はします。こっちに帰ってきて、私が海外で身につけた当たり前は、日本では当たり前じゃないなと感じることが多くて。
だけど私みたいに、集団の中で居心地の悪さを感じる人もいるわけで、だからこそ、カテゴリではなくてその人自身と向き合っていく世の中になったらいいなと思って活動しています。
―Ladyknowsが、フェミニズム、LGBTQなど、大きいけど当事者意識を持ちにくい問題をデータで提示してくれるのがすごく面白いなと思いました。
Ladyknowsをやるときにデータから始めたのは、ジェンダーとかフェミニズムってすごく感情論になりがちだなって思うことが多かったからです。視点をどこに置くかで見え方が変わってしまうし、男性vs.女性とか、女性の中でもキャリ
ア志向vs.家庭志向という対立構造や分断を生みがち。
いろいろな生き方がある中で、分断を生まず、感情論にならずにどうしたら建設的な議論を生む土台を作れるかっていうところでデータにしてみたんです。
実際にデータにして俯瞰して眺めてみると、男女の賃金格差って女性が苦しんでいるように見えるけど、育休の取得率って男性はすごく低い。この数年で4倍くらいにはなっているんですけど、それって1%が4%になったくらいの数字でしかなくって。
もちろん「女性は楽ができていいよね」って言う人もいるだろうけど、子育てをしたい男性もいるはずで、個々がなにを大事にしているかによってたくさんの選択肢から人生を選べる世の中になったらいいなと思っています。
そのためには、やっぱり多くの人の連帯が必要で、今はそんな未来を実現するための種蒔きですね。
―そんな辻さんが今後成し遂げたいことってなんですか?
例えばLGBTQへの理解がレインボーをイメージにしたことでマスに広がっていったように、難しさが邪魔して入り込みにくいものを、演出やクリエイティブをポップに魅せることで入口を広げていくのが私の役割かなって思っています。
あとはすごく壮大な夢で恥ずかしいんですけど、世界平和に貢献したくて、ノーベル平和賞をクリエイティブで取れたらいいなって。私の師匠の牧野圭太もまったく同じことを言っていて、「ライバルだな」と(笑)。
現実的な仕事面では、今クリエイティブって問題解決の一手法でしかなくて、そこに問題があるから、その解決を頼まれることがすごく多いんです。だけど仕事をしていく中で、その問題自体がズレたものだと、解決策もズレるよねって思うことがたくさんあって。
そう考えると、今クリエイティブが担っている領域ってとても狭い。なので、対社会でも対企業でも、問題の発見から入れる仕事がしたいなと。単発の仕事よりも、長期的に相談したいと思ってもらえるパートナーのようなクリエイティブディレクターになっていきたいと思うし、そんな会社作りを目指しています。
最終的に自分の資産として残るのって、 孤独と向き合った時間な気がする
―辻さんのお話を伺っていると、本当に好きなことを仕事にしているからこそ、ここまで深く考えて活躍の幅を広げていけるんだろうと感じるのですが、辻さん流「好き」の見つけ方はありますか?
それでいうと2つあって、友達と遊ぶのが楽しいのはわかるし、一人でいることへの周りの目が気になるっていうのもみんなあると思うんです。でも最終的に自分の資産として残るのって、孤独と向き合った時間な気がしていて。
私は制服を着て放課後にプリクラ撮ってみたいな日本のJKカルチャーってすごく憧れるんですけど、ある意味そういうものを手放しているし、結構修羅の道だったし(笑)。
「好き」のきっかけはみんなと一緒にいるときに見つかるかもしれないけれど、それをひとりで深堀りしないと熱中できるほど「好き」になれないと思うんです。いかにオタクになれるかが大事というか。
その前段階で、何を深掘りしていいかわからない状況だとすると、とにかく打席に立つこと。自分の心地良い世界から少しずつ外に出て、いろんな人やモノと出会って多くの選択肢を手に入れた状態で、何となく優先順位をつけて片っ端から深掘りしていくみたいな。違うと思ったら、やめればいいだけ。
それを繰り返していくうちに、どこが自分の打席なのかが自然とわかってくるのかなって。意外と自分と向き合って悶々と考えるというか、寂しい子であるっていうのは大切なんだろうなって思います。
―好きが見つかった先で、辻さんが学生社員になったように、思い切った一歩を踏み出すその心意気を知りたいです。
私は何も成し得ずに死ぬことが怖すぎるんだと思うんです(笑)。ネガティブですみません(笑)。このままの自分と行動した自分、どっちが良いかなんじゃないかな。メリットとデメリットを考え始めるとどっちもあるので、どちらの自分が好きかっていうところで考えたらいいのかなって思っていて。
自分が80歳になったときにどうなりたいのか、何を大切にして生きたいのかを考えたうえで選んでみたらって。もうひとつすごく思うのが、大事なのは、「全部自分でやろうとするのは無理」ということを受け入れることな気がします。 自分に期待しすぎないというか…。
もちろん最終的なアウトプットに対しては、どこまでも高みを目指したいと思っています。でも、出来ないことを伸ばすよりも、出来ることを伸ばして、出来ない事はそれを出来る人と一緒にやることが、実はものすごく早いと思うんです。
みんなが自分の価値を社会で発揮できるようになるためには、それぞれの長所がマッチすることだと思うので、自分がどの領域であれば貢献できるのかみたいなことを考えながら過ごしていると、いい頼り合いが生まれるんじゃないかな。
撮影こぼれ話
「撮影、慣れないんですよ」と言いながらも、徐々に素敵な笑顔を見せてくれた辻さん。自らプロデュースしたTapistaのお気に入りの一品は、「贅沢果実の生いちごミルク」(¥560)だそう。
撮影/熊谷直子 取材/大塚悠貴 編集/岩谷 大
※掲載の情報はJJ12月号を再構成したものです。