フジテレビでドラマ制作プロデューサーとして活躍する宋ハナさん。そんな彼女は2021年9月に出産し、2カ月後には現場復帰を果たします。ドラマの現場の第一線で活躍する女性にとって、妊娠出産と仕事を両立するということ、どういうことなのか? お話を伺いました。
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今回お話を伺うのは...
宋 ハナさん
東京外国語大学卒業後、2013年フジテレビ入社。CS放送(現在のコンテンツ事業)に配属された後、ドラマに異動。過去には「教場Ⅱ」、
ドラマ制作の裏側、プロデューサーの頭の中は?
Q. まずテレビ局に入ったきっかけを教えてください
私は韓国で生まれ育ち、大学から日本に来たため、フジテレビの番組をみて日本語を覚えました。もともとテレビが好きだったのもありますが、フジテレビの番組を観て、「楽しそう」と感じたのが一番大きかったと思います。しかし実は…、就活ではテレビ業界にこだわっていたわけではないんです。他業界も含めて幅広く受けていたけれど落ちてしまって(笑)。最後にチャレンジするなら好きなこと、やってみたい仕事に思いっきりチャレンジしたい!という気持ちでフジテレビの試験に臨みました。
Q. 実際にテレビ局に入って良かったと思えることはありますか?
テレビ業界は斜陽だという声もありますが、それでもテレビは世代年齢性別問わず共通の話題になりやすい媒体だと感じています。私にとってテレビは生活の一部で欠かせない存在ですし、誰かの生活の一部になっているモノ、共感し共有しているモノに携わる仕事ができていることはすごく嬉しいです。人に影響を与えられる仕事に就けていることは、すごく幸せだなと思います。
Q. ドラマ制作の現場では、具体的にどういったお仕事をされているのですか?
私はドラマ制作の中でもプロデューサーと呼ばれる仕事をしています。具体的には企画を立てて、その企画を実現するためのキャストとスタッフを考えて集め、脚本家・監督とともに台本を作り、撮影や放送に向けてのプロモーションの展開などオンエアまで責任を持って担当するのがプロデューサーの仕事です。撮影期間と準備期間によってスケジュールは大きく異なるのですが、準備期間は出社してから台本を1日中作っている日もあれば、撮影現場に行って監督やキャストとディスカッションをすることもあります。
Q. 宋さんは、入社当時からドラマ制作志望だったのですか?
当時はバラエティ志望でした。ただ最初の配属で私は有料放送事業の部署でCS放送の担当になったんです。そこでは、タイムテーブルを作ることから始まり、バラエティドラマ問わず幅広く番組の企画なども行う中で、「見る側にとって様々な感情を引き起こすことができるドラマを制作をしたい」と思うようになりました。
Q. ドラマ制作の部署に異動されて4年が経ちますが、ご自身の中で変わったことはありますか?
異動した当初はとにかく嬉しかったのを覚えています。何もわからない状態でドラマ制作の現場に入ったのですが、現場でキャスト・スタッフと一つになっていいモノを作ろうという情熱に触れながら、少しずつ仕事を覚えるうちに「こんなドラマを作ってみたい」と思えるようになりました。当然最初は与えられた仕事をなんとかこなすことで精一杯だったのですが、作品を重ねるうちに、より多くの人に共感してもらえる作品をどう作り、届けるにはどうすればいいか、という「作る」だけではなく「届ける」部分まで考えられるようになったかな、とは思います。
Q. これまでに『教場Ⅱ』や『世界は3でできている』といった話題作を手掛けるなかで、精神的に大変だと感じるときはありますか?
オンエアの前は、実際にどう観てもらえるか、ということで悩むことはあります。「世に送り出したいものはこれで完璧だったのかな」と考えたり…。実際に放送が終わるまでは緊張しますね。
Q. 放送中や放送後のSNSの反響は参考にしますか?
反響はリアルタイムでも、放送後もチェックしています。参考にする/しないは、時と場合によりけりです。受け入れられるところは参考にしつつも、自分がやりたいことは全うしたいので左右されないようにしています。
Q. 数多くのドラマプロデューサーがいる中で、「宋さんらしさ」はどんな部分にあると思いますか?
なんでしょう…。模索中かもしれないですね。これはプロデューサーだけではなく皆さんそうだと思うのですが、どの仕事においても、自分らしさを出すために試行錯誤しながら成長するのかなと思っています。もしかしたら、私は韓国で生まれ育ったので、韓国ドラマを観て育ってきたことが“らしさ”の一つになっているかもしれません。日本のドラマを観ていても「韓国ドラマだったら次の展開はこうなるな」とか、逆に韓国のドラマを観ながら「日本のドラマだったらこの展開にはしないな」とか、両方を客観的に考えることもあるので。
今はNetflixなどの配信サービスも充実していて好きなタイミングでドラマを観られる時代なので、そういったニーズにどう応えていくかは常に考えています。
Q. ドラマを作る上で一番のやりがいはなんですか?
ドラマ制作は、キャスト・スタッフと大人数で仕事をしているので、一つの目標に向かってみんなが考えていることをまとめて作品に仕上げていくことが難しくもあり、やりがいでもあります。ある意味現場は俳優さんたちも含め“職人”の集まり。みんなで良いモノを作ろうと協力して、ひとつの現場が終わったときの達成感はすごくありますね。
Q. 2021年はギャラクシー賞を受賞されました。とても大きな賞を手にされたと思うのですが、今後はどんなドラマを作っていきたいですか?
受賞自体は正直予想外でした(笑)。このドラマを企画・演出した中江 功監督と一緒に授賞式を楽しく見ていたら、最後に名前を呼ばれてとても驚いたのを覚えています(笑)。改めて思ったのは、「企画の大事さ」です。そして企画に賛同し一緒に苦しみながらも目標に向かって楽しんでくれるスタッフ・キャストの存在。そこから新しいものが生まれると改めて感じました。作る側でもありますが、一視聴者でもある自分だったら何が観たいのかを常に考えながら、今後も新しいモノを生み出していきたいです。
©️ 第58回ギャラクシー賞贈賞式/主催:放送批評懇談会
妊娠、出産を経ての仕事復帰。これからのキャリアは?
Q. 宋さんは今年9月に出産されていますが、その直前までお仕事されていたのですか?
幸いにも妊娠中の体調が良かったのと、仕事を続けたいという気持ちが強く、楽しく働いていました。妊娠がわかる前に、すでに始まっている企画と、その次の企画が決まっていたんです。そのため、「自分でやりたい」という気持ちと、「やらなきゃいけない」という責任感もありました。どうしても産休で最低2カ月は休むので、それまでにできる限りの仕事はしておきたく、ギリギリまで働いていましたね。
Q. 制度上、もっと長く休むこともできたと思いますが、その選択肢はなかったのですか?
決まっていた企画は「なんとしてでも自分でやりたい」という思いがありましたし、会社の理解や夫のサポートもあったのですぐに復帰することにしました。いろんな条件が重なっての決断だったので、企画が決まっていなかったら、もしかしたら…、もう少し長く休んでいたかもしれません(笑)。
Q. ドラマ制作の最前線に立ち続けながら、出産、子育てを両立していくのが難しいと感じることはありますか?
ありがたいことにフジテレビは制度がしっかりしている会社なので、所属しているドラマの部署や人事含め、どうやったら両立できるかを一緒に考えてくれています。同じ部署にもママの先輩がいらっしゃるので、お話はよく聞いていますね。
実際に出産をして時間に制約ができたり、キャリアや仕事の仕方を考えることも増えました。ただ、今思っているのは、ここで私が頑張ることで後輩たちに「私に出来たのだから、みんなもきっとできるよ!」と見せたいですし、キャリアのことを心配せずに出産できる環境を作ってあげたいと思っています。
私自身、妊娠がわかったときにドラマの担当を続けるのは難しいかもしれないと思ったのですが、どうしても両立したくて「頑張るのでやらせてください!」と相談し、やらせてもらっています。妊娠、出産を理由にキャリアがストップしてしまうのは後悔すると思いましたし、私の中には「やりたい」という気持ちが大きかった。きっと同じような境遇を迎える後輩も多いと思うんです。だからこそ「出来る」ということを示したいという気持ちはありますね。
Q. 今後もプロデューサーを続けていきたいですか?
ドラマ自体が好きなのもありずっと関わり続けたいです。今までとは違う課題もありますが、この妊娠・出産の経験を活かしたドラマも作りたいんです。家族の話や命の話、この経験を経たからこそ、作れるモノがあるんじゃないかと思っています。
いかがでしたか? ドラマ制作の裏側と、女性としてキャリアを築いていくことをたっぷりお話いただきました。次回は総理番として活躍する女性社員にインタビューしていきます。お楽しみに。
撮影/岡田 健 取材/中村有希 編集/岩谷 大