6月29日の東京ドーム公演をもって解散する女性6人組アーティスト「BiSH」。2022年以降、12カ月連続シングルリリース、計3本の全国ツアー、大阪城ホール・富士急ハイランド・横浜アリーナ・代々木第一体育館といった大会場でのライブなど、注目を集め続けている。
解散を目前に”WACKの副社長”ともいわれるBiSHのセントチヒロ・チッチ(以下、チッチ)に、BiSHの黎明期と自身の変化を訊いた。
WACKの礎となったのが、同社代表の渡辺淳之介氏が前職・つばさレコーズの会社員時代にプロデュースしたアイドルグループ「BiS(第一期/2014年に解散)」だ。人気タレントのファーストサマーウイカも所属していた一期BiSは、メンバーが全裸で出演したMVをはじめ過激なプロモーションの数々が話題を集めてブレイクし、アイドル業界に強烈なインパクトを与えた。
「私がBiSHのオーディションを受けたいちばんの理由は、そのころ『いま私、レールに乗った生き方をしちゃってるな』と感じたからです。何かを変えたいけど自分では変えられない日常で、ここに入ったら人生を変えてくれるかもしれない…むしろ、『ここじゃないと人生を180度変えてくれる人に出会えない』と思って応募しました。
それはBiSの活動があったからですし、BiSがいなかったら他のメンバーだって人生を変えようとしてWACKに入ってきていないはず。だから私は過激な活動にマイナスイメージを持つことは全くなくて、おもしろそうな事務所だなと思っていました」
BiSの活動は、別のグループで活動していたチッチを大きく揺さぶった。
「まず、BiSの音楽がカッコよかったんです。今はアイドルが山ほどいるし、どんなジャンルのアイドルでもいる時代なんですけど、当時バンドサウンドでやっていたBiSは異端児で、私にはめちゃくちゃカッコよくて輝く存在に見えました。
当時、正統派アイドルのような活動をしていた私は、『BiSと比べて私はクソつまんねえな』と感じていて。私がとても好きな楽曲たちに囲まれて異端な活動をしている一期BiSの姿を、素直にうらやましいと思っていました。
だからBiS本人だけじゃなくて、BiSを作り上げている人たちの“チーム”にすごく魅力を感じました。そのときは、BiSの成功がいろんな人が奇跡的に巡り会わないとできない”必然”だとは思わなかったんです。それで、『BiSを成功させた人がいるところじゃないとダメだ!』と思っていたんでしょうね」
2015年にBiSHが結成してまもなく、過酷な日々が待っていた。
「メジャーデビュー前は、当日まで企画を知らされずに現場に行ってました。全員集合して、今からこういうことをしますと言われるのが当たり前で。『BiSH-星が瞬く夜に-』のMV撮影日は、結成してやっとメンバー4人が集まるタイミングでした。
何も知らされずに『初めてのMVだ!』と喜びながら海辺に行ったら、壁に向かって(馬の)ウンコをかける練習をしている人たちがいて、『うわ、何してんだろうね』と言っていたんです。そしたら、『今からアレをかけられます』って……。ただ、みんなそれ相応の覚悟があってBiSHに入ってきていたので、もちろんイヤだけど『イヤです』なんて言えませんでした。
じつは私は途中から、『こんなことできるのウチらしかいないんじゃね?』って思えてきて、若干それが快感になっていた部分もあって(笑)。『臭いし痛いけど、今これをやることがすごい大きな意味になって、いつかBiSHの歴史になるのかもしれない』と、そのときも少なからず思いながらやっていました。ツラかったけど」
「みんなチッチと同じようにできるわけじゃない」メンバーの一言に大反省!
BiSHが乗り越えてきたハードな企画には、WACKアーティストの”伝統”になったものもある。
「最初のメンバー4人とマネージャーの渡辺さんで1人40kmずつ走った『200km駅伝』、私たちが爆破される『MONSTER』のMV撮影、プールに落とされる『OTNK』のMV撮影……ツラいと思うことは死ぬほどありました。メジャーデビューした頃の『24時間イベント』もツラかったですね」
2021年の9月には、後輩グループの「ASP」がメジャーデビュー記念に24時間ライブを実施。チッチも応援ゲストとして、一部に出演した。
「私たちのときは“途中抜け組(年齢事情による)”がいなかったんで、24時間ずっと全員で出続けなきゃいけなくて。途中で喉が枯れちゃうメンバーもいたし、言い争いもありました。ASPは協調性がある子たちなんですけど、BiSHは”普通の子”じゃなくて当時は協調性なんてなかったからケンカばかりだったし、空気も最悪で。じつは、それが一番ツラかったですね。
私にとってメンバーは、それまで生きてきて関わってこなかったような人間たちだったし、人として自分とは別物すぎました。だからメンバーとの関係は”好き/嫌い”じゃなくて、”受け入れていく過程”。最初のころはみんな、お互いに何を話していいかすらわからなくて、嫌いといえば嫌い…だったかも(笑)。
その反面、自分以外はみんな面白いと感じていて、ほかのメンバー全員がうらやましかったんです。出会ったことないような子たちだったからこそ、『なんでこんなに面白いんだろう』と思っていました」
自分とは異質なメンバーと活動を続けるうちに、気づかされたことがある。
「自分が当たり前は、決して”他人の当たり前”じゃないと思えるようになりました。たとえば、『これは誰にでも当たり前にできる』と思ってしまうことは、誰にでもありますよね。私は基本的に器用貧乏で全部なんとなくできちゃうタイプだから、BiSHでも最初は『みんなこれぐらいできるっしょ』と考えがちでした。
結成したばかりの頃、練習中モモコ(グミカンパニー)に『何でこんなこともできないの?』と言っちゃったことがあります。そしたらモモコから、『チッチができることを、当たり前にみんなできると思うのは違うよ』って言われてハッとして。そのとき『あ…なんてエゴなことを言ってしまったんだ。ごめん、私すごく間違ってたわ』と素直に反省しました。
たぶんメンバー以外の人に言われてたら『はぁ?』って思っていたけど、モモコだったから響いたんだと思います。モモコはすごく頭がいいし文才もあるんですけど、歌やダンスが得意なタイプではなくて。常日頃から一緒にいて苦手なこともわかっていたし、努力も見てるから『そりゃそうだ、当たり前じゃないよな』って思えたんです。
それからはどんなときでも、『自分にとっては当たり前のことを、目の前の人は当たり前にはできないかもしれない』って考えるようになりました」
それは、チッチが”大人になる”きっかけでもあった。
「自分が『これはみんな当たり前に好きでしょ』と思っているものだって、嫌いな人は絶対にいて。特殊な子たちが集まったからかもしれないんですけど、BiSHにいるとそう感じることがたくさんあったから、今では『当たり前なんてないんだ』と思うようになりました。
BiSHでいろんなことがあり過ぎて、いろんな人に出会いすぎて、”受け入れ体制”がとても強くなりました。ただ理解するだけじゃなくて、受け入れることを覚えたんです。たぶん”他人との違い”を同世代の人たちよりも多めに体感してきたので視野が広くなって、人に対する想像力が豊かになったのかな」
ダイエット失敗でキャプテン降格…「みんな嫌い」が心を楽にした
活動開始から2年弱の2016年、チッチの人生を変える”事件”が起こる。
「私個人のダイエット企画で挫折して、メンバーもファンもスタッフの大人たちも、そのときに関わっていた人たち全員を一度、大嫌いになりました。まだアユニ(・D)が入ってくる前で、ハグ・ミィ(元メンバー)がいた頃のことです。
私がご飯を食べられないときもみんな気にせず食べていて、すごく嫌な気持ちになりました。しかも失敗した瞬間、メンバーが誰も助けてくれなかったんですね。自分ではどうにもできないし、渡辺さんをはじめ大人たちは冷たくなるし、『客も客だよ、何が楽しいんだ!』って思っちゃって。
失敗したあとが一番大事だとWACKで学んだはずだったんですけど、『もう全員キライ!』って。いま考えると、自分から『ちゃんとやります』って言ったのに、覚悟が足りなかったんです。私たちはそのときのことを『BiSHの黒歴史』って呼んでいます(笑)」
ダイエットに失敗したチッチは、BiSHの「キャプテン」を降格させられ、自暴自棄に。
「他のメンバーには歌とかダンスとか個性的なキャラクターで輝く部分があるけど、私はすごく普通だから、『キャプテンじゃなくなったら、私には何もなくなっちゃう』って思ってしまって、肩書きにしがみついていたんです。だから一時、BiSHをやめようと思っていました。
そんなときに遠征先の大阪・心斎橋のカフェでメンバーとパンケーキを食べていたら、アイナ(・ジ・エンド)が『チッチが辞めたらBiSHが終わる』って言ってくれて。その言葉にハッとさせられました。
私はそれまで『自分は自分、人は人』と思っていて、自分が辞めてもBiSHは続くだろうと思っていました。でもそのときから、一人ひとりがどれだけBiSHにとって大きな存在なのかを、自分についてもメンバーについても考えるようになったんです。
アイナが『半年くらいしたら、たぶんチッチ笑っていつも通りやってるんじゃない?』と言ってくれたので、私は半年やって嫌だったらやめますと宣言して、続けたら大丈夫でした」
チームへの意識とともに、自分の視野も大きく開けた。
「レールから外れられない自分を変えたかったのに、結局WACKに入ってもそうなっていることに苦しんでいました。でもダイエット企画に失敗して、『全員嫌いだから、みんなに好かれる必要もない』と思うようになって、全部が気にならなくなりました。『“チヒロ”に戻って生きたって同じだ、愛してくれる人たちのためにやればいいか』と覚悟をすることができたんです。
ある意味そこで大きく生まれ変わって、発言することの意味とか、自分から生み出すものをもっと考えて発信しなければとか、以前よりもっと考えるようになりました。この経験がなかったら今の私じゃなかったな、と思っています」
挫折を経て生まれ変わったチッチが、今いちばん大切にしていることは?
「素直に生きること、かな。結果オーライだったなと思えることも多いですけど、それが悪影響を及ぼすことも同じくらい多くて、めっちゃ反省もします。
それでも、やっぱり素直が一番いいと自分では思っていて。素直に発言したこと、生きてきたことが好転して今の私があるので、自分の感覚に真っ直ぐ生きてきてよかったなと思います」
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※6月11日(日)23:59まで
profile/セントチヒロ・チッチ(せんとちひろ・ちっち)
2023年6月29日の東京ドーム公演をもって”楽器をもたないパンクバンド”BiSHで、2015年の結成時から活動中。グループではリーダー的な役割を果たす。音楽、ファッション、フィルムカメラ、カレーと趣味は多岐にわたり、スパイス探求番組『スパイストラベラー』(フジテレビNEXT)でMCを務める。またソロアーティスト「CENT(セント)」としても活動中。2ndデジタルシングル『すてきな予感』が好評配信中。
Twitter:@Chittiii_BiSH
Instagram:@cc_chittiii_bish
写真・Takuya Iioka
ヘアメーク・Chigira[RIM]
ロケーション協力/Studio Clara[ADDICT_CASE]
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