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今、東出昌大&三浦貴大がメディアに思うこと…映画『Winny』公開記念インタビュー

 “ネット史上最大の事件”を描いた映画『Winny』が絶賛公開中! ファイル共有ソフト「Winny」の開発者である金子勇が不当逮捕を受けたことを発端に、警察・検察と弁護団の攻防が展開されていくのですが、そのなかでマスコミ報道の在り方を考えさせられるシーンがいくつもあります。今回は、W主演を務めた東出昌大さんと三浦貴大さんに、自身とメディアの在り方について語っていただきました。

(写真右から)

東出昌大 1988年2月1日生まれ 埼玉県出身 2012年に映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビューし、同作で毎日映画コンクールなど、数々の新人賞を受賞する。NHK連続テレビ小説の『あまちゃん』や『ごちそうさん』、大河ドラマ『花燃ゆ』、『コンフィデンスマンJP』シリーズなど、多数の話題作に出演する。

三浦貴大 1985年11月10日生まれ 東京都出身 2010年に映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』で俳優デビュー。近年の出演作品に映画『流浪の月』『キングダム2 遥かなる大地へ』、NHK連続テレビ小説『エール』やドラマ『エルピス−希望、あるいは災い−』など出演している。

あらすじ

2002年、天才的プログラマー・⾦⼦勇(東出昌⼤)は、ソフト「Winny」を開発。試⽤版を「2ちゃんねる」に公開しました。「Winny」は、使用者同⼠が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを拡大していきます。しかし、その裏で⼤量の映画やゲーム、⾳楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする若者も続出。社会問題へと発展していきます。違法コピーした者たちが次々に逮捕されていくなか、開発者の⾦⼦も著作権法違反幇助の容疑をかけられ、2004年に逮捕されてしまいます。

サイバー犯罪に詳しい弁護⼠・壇俊光(三浦貴⼤)は、⾦⼦逮捕の報道を受けて、急遽弁護を引き受けることに。⾦⼦と共に裁判で警察の逮捕の不当性を主張するも、第⼀審では有罪判決を下されてしまいます。

余計なお世話すぎる!? 東出昌大の“全粒粉報道”

今作のなかの印象的なシーンのひとつが、不当逮捕と信じるネット民からは金子勇(東出)に対して寄付金が集まる一方で、新聞、テレビなどの大手マスコミが金子に不利な情報を報道しつづけていたというもの。警察サイドは、世間の心象をコントロールして情報戦で優位に立とうとしたのです。俳優、芸能人として、注目されつづけるふたりは、どのような距離感でメディアの情報と付き合っているのでしょうか?

東出 自分の記事を読むと、ときどき『どこから出てきた情報なんだろ?』と思うことはありますよね。

三浦 両親が芸能界にいたこともあって、三浦家のことを週刊誌に書かれることが多かったんですよ。高校生のときに母親のことを書かれましてね。「めちゃくちゃ教育ママで、息子を良い学校に行かせようと必死になってる(知人談)」みたいな記事が出たんですよ。「好きなことやりな〜」みたいな感じで育てられてきたのでまったくの事実無根でした(笑)。

東出 「どこの知人だよ!」って感じですね。僕の場合は、自分のことを書いた記事なのに、話がガセだったり、盛られたりで「これ誰の話だったっけ?」っていう記事が多い(笑)。話が発展しすぎて、原形をとどめていないんですよね。こんなところまで記事にするのかと思ったのは、舞台の合間に買い出ししている姿を週刊誌に撮られたときのこと。それが、たまたま全粒粉を抱えている写真だったんですよね。記事には「この全粒粉を独身の東出はひとりで食べきるのだろうか」と原稿が。まあ、ひとりで食べるんですけど(笑)。

三浦 余計なお世話ですよね(笑)。なにか対応したんですか?

東出 じつは後日、その記事を作った記者とカメラマンと仲良くなったんですよ。そのときに、「次は舞台のときに何抱えてたら面白いかな?」と相談しておきました。いずれ、袋いっぱいのジャガイモも抱えている写真を撮られたときには、狙ってやったんだなと思ってください。

「ネットニュースやSNSのコメントには付き合わない選択をしました」(東出)

東出 僕はガラケーしか持っていないですし、いまはSNSもやっていない。極力そういった情報に付き合わないようにしているんですよ。でも、『Winny』に出演してから半強制的にネットニュースを見せられる状態になってしまいました。(三浦さんが演じる弁護士のモデルとなった)壇俊光先生とご一緒して以来、お願いしてもいないのにネットニュースのリンクを送ってくるんですよ。「炎上してるで〜(笑)」って。

三浦 逆に僕はめちゃくちゃエゴサしちゃう方ですね。「Winny事件」のころから「2ちゃんねる」を見ていたので、僕はネットのカキコミには割と耐性がある方だと思うんですよ。例えば、ネットに中傷のコメントが1件ついていたとするじゃないですか。耐性のない人は、その1件を見て「世の中すべての人が同じように思っているんじゃないか」と傷ついてしまう。僕の場合は、「でも、言ってるのはひとりだしな」なんですよ。テレビドラマで言うと視聴率1%は、人口比で約100万人が見ている計算になるそうです。数百万人、数千万人の視聴者がいるなかで、1件しか中傷がなかったなら、まあ良しですよね。

東出 僕がネットニュースやSNSと付き合わないと決めたのは、芝居のことを考える時間を大切にしたほうが良いんじゃないかなと思ったからです。誹謗中傷のなかには、「バカ」とか「アホ」みたいなものもありますけど、なかには説教でしたり、自分の正義を振りかざすものもあるじゃないですか。よく知っている人に面と向かって言われるならまだしも、「誰かも知らない人に、どうしてひどいこと言われなきゃいけないんだろ」と思うんです。自分がブレているときって、ネガティブなことを言われると必要以上に気に病むし、何をするにも迷ってしまいますよね。そうしているよりも、仕事にしっかりと向き合うほうが有意義なんじゃないかなと考えを改めたんですよ。

三浦 炎上も怖くないですか?

東出 もう怖くないですね。キャスティングに響くかもしれないけれど、どんなに知らない人が叩いてこようが、見さえしなければ僕の実人生にはまったく影響がないですから。無意味な炎上は「もう、知らん!」と開き直るようにしています(笑)。

「人は自分にとって都合の良いことを、真実だと信じようとしてしまう」(三浦)

東出 ところで報道と言えば、三浦さんはドラマ『エルピス』で、報道する側の立場を演じていましたね?

三浦 僕が演じていたのは、テレビ局の報道部記者。大きな組織に所属していると、守るべき正義が押し流されてしまう危うさを描いた作品でしたね。会社での立場や家族の生活などを考えると、流されてしまう気持ちもわからなくはないのですが…。「真実はひとつ」とはよく言いますが、現実には、それぞれの立場で見えてくる真実は違う。人は自分にとって都合の良いことを、真実だと信じようとしてしまいがち。『Winny』にも共通するテーマが描かれていたように感じますね。

東出 『Winny』のお仕事の依頼を受けたときに最初に思ったのは「逮捕されて2回も有罪判決を受けた人って本当にちゃんとした人なんだろうか」ということ。でも、金子さんを知る人に話を聞いたり、裁判資料を読んだり、彼の人柄を知っていくうちに疑念は晴れていきました。三浦さんのおっしゃる通り、一方的な視点で人を判断しようとすると偏った答えを出してしまうことがあります。だからこそ、広い視点をもって人や情報に接することが大切なんですよね。この作品は、報道しかり、正義しかり、人間関係しかり、物事を多角的に見るための視座を持つことを提案してくれているように思えます。

公開情報

映画『Winny』は3月10日より全国ロードショー

監督・脚本:松本優作

出演:東出昌大 三浦貴大 皆川猿時 和田正人 木竜麻生 池田大 金子大地 阿部進之介 渋川清彦 田村泰二郎 渡辺いっけい / 吉田羊 吹越満 吉岡秀隆

撮影/木村哲夫 取材・文/小石原悠介

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