vol.16 ジュリアン・マッケイさん
今年9月7日(土)、奈良県の法隆寺で行われた舞台『OTOBUTAI』に出演し、年末年始、K-BALLET TOKYOの『くるみ割り人形』『シンデレラ』でも王子役を踊る予定のジュリアン・マッケイ-Julian Mackay-さんに、独占インタビュー!
©Nicholas Mackay
2015年に出場したローザンヌ国際バレエコンクールで注目を集め、英国「ロイヤルバレエ」の研修生を経て、ロシア「ミハイロフスキーバレエ団」、アメリカ「サンフランシスコ・バレエ団」を経て、現在ドイツ「バイエルン国立バレエ」にてプリンシパルとして活躍するマッケイさん(K-BALLET TOKYOではゲストダンサーに)。世界中の劇場で客演し、カルティエのアンバサダーを務めるなど幅広く活動し、Instagramのフォロワー数は28.1万人。バレエ界の寵児としてダイナミックな踊りと王子様のような甘いマスクで魅了、本連載には二度目の登場です。
王子様の過去記事
ジュリアン・マッケイさんのプロフィールと過去の記事はこちら
©Nicholas Mackay
世界中のカンパニーや劇場に招待され大活躍ですが、マッケイさんのバレエへの愛はどんな風に生まれたのでしょうか?
「私は、幼少期はとても社交的でわんぱくで。ある時、話すよりも動いて伝えるほうが、自分に向いていることに気がついたんです。そこから動くことに興味をもち、姉がバレエをやっていたことから一緒に習うようになりました。バレエに出合うことで、よりオープンに自分を表現できるようになりコミュニケーションもうまくいくように。ますますバレエに魅了され、自信もついていきました。『なぜ男の子がバレエをやるの?』と理解されないことも多かったのですが、それよりもバレエへの愛が強かった。今でも男性がバレエをやることの素晴らしさを世間に伝え続けています。情熱的だったり、強い表現や哀愁のようなものは、男性ダンサーならではの強みだと感じています」
©Nicholas MacKay
ロシアの名門ボリショイ・バレエ・アカデミーで当時外国人では最年少記録の11歳で入学し、首席で卒業。ローザンヌ国際コンクールでスカラシップを獲得し、英国ロイヤルバレエの研修生、そしてロシア、アメリカ、ドイツと23歳にして華麗なキャリアを誇りますが、キャリアの中で影響を受けた人を教えてください。
「それは、演出家のみなさん全員との出会いです。イギリス、ロシア、アメリカ、ドイツ、東京では熊川さん。どのカンパニーにも刺激を与えてくださる素晴らしい演出家がいるからこそ成長ができるんです。昨日出演した法隆寺での『OTOBUTAI』の公演でも刺激をもらいました。客演やゲスト出演する時は、事前に劇場や場所の歴史を調べるのですが……法隆寺はマチュピチュぐらいの古い遺跡だと思っていたのですが、それよりもっと古く歴史のある場所で驚きました。非常にスぺシャルな場所・空間で自分が別人になったように踊れましたし、法隆寺の世界観に触れ感動しました。
ものすごくいいパフォーマンスをした時って実はすぐに拍手がこなかったりするんです。その“間”を感じると、いいパワーを発揮できたんだなと心に刻むのですが、昨夜の舞台はそういう瞬間だったと思います」
©Nicholas MacKay
クラシック作品とコンテポラリー作品どちらも踊られていますが、2つの分野のうちどちらが自分をより表現でき、ダンサーとしての個性を発展できると思いますか?
「今の時点で答えられるのは、バレエのキャリアを重ねるほど、コンテンポラリー作品でもクラシック作品でも自分らしい表現ができるようになってきたということ。私の踊りの強みは正直さと怖さ知らずなところです。踊ることで自分自身を開き、見てくださる方と繋がることができる。そういう踊りでありたいと日々努力しています。
バレエって素晴らしい総合芸術。私の踊りはとてもマジカルでエキサイティング、そして少しだけロックンロール!なので、とても楽しいと思います」
©Nicholas MacKay
今後、挑戦したい役を教えてください。
「クラシックなら『マノン』と『オネーギン』。K-BALLET TOKYOの『くるみ割り人形』『シンデレラ』の王子様役もいつかはやってみたいと思っていました。若い時はなんとなく雰囲気でその役をやりたいと思うのですが、年を重ねていきダンサーとして成熟していくと、振付だけでなく、劇中の瞬間や、ストーリーの中の感情、ドラマに惹かれるようになってくると思うんです。『マノン』は独特の深い世界観があって、自分ひとりではなくカンパニーのみんなと、そして観客のみなさんと一緒に探求してみたいと思う作品です。
私は、踊りながらそして役柄をどう表現するかを考えながら、自分自身が誰であるか人生の探求を続けているのだと思います。そしてもっとバレエを広めたいと考えています。踊ることで人々を勇気づけたり、踊ることの尊さ、魅力を広めることが私の使命だと感じています」
多くの役を踊ってきた中で、共感する役はありますか?
「自分ぴったりという役は今も模索中ですが……。『ロミオとジュリエット』のロミオは、自分の気持ちに強く立ち上がり続けるという意味では共通点があります。闘う役柄に共感を覚えますね」
女性の役柄で魅力的だと感じる役はありますか?
「バレエ作品として役柄に惹かれるのは『白鳥の湖』のオデットとオディール。白鳥では美しさを、黒鳥では魅惑的なパワーを表現することができるから。個人的に魅かれるのは『ドン・キホーテ』のキトリかな。パートナー、音楽、ファッション、自分の好きなものを好きだと表現し、人生を楽しんでいるから。『シンデレラ』のシンデレラも、生まれながら美しい心をもち、自然体なところが魅力的ですよね」
©Nicholas Mackay
王子様役はマッケイさんのハマり役だと思うのですが、ご自身が考える王子さまっぽいところとそうでないところを教えてください。
「現代人なので王子らしさはないのですが、6歳の頃から王子様役をやっているので、王子の所作や立ち方、振る舞い方のルールをたくさん習ってきており、ハマり役と思ってくださるのもかもしれません(笑)。逆に王子様らしくないところはありますよ……王子のように素直で色々なことを受け入れるのではなく、指図されるのが実は嫌いなんです(笑)。スクール時代、王子役を言われた通りではなくかなりアレンジして踊ってしまったこともあります」
世界中で客演し、お忙しい日々を送られていると思いますが、リフレッシュ方法はありますか?
「サウナです! いい香りのするお香やアロマを焚くこと、筋肉に効果的なので温泉も大好きです。さまざまな国でサウナに行っていてサウナの中でストレッチをすることも。そうするとぐっすり眠れますね。睡眠といえば『めぐりズム蒸気でホットアイマスク』の大ファンで、必ず寝る前に使います。世界中どこに行っても(笑)。来日したらいつも大量に買って友達にもあげています。去年、“ポケモン”デザインのめぐりズムに出合って、ポケモンが大大大好きなので興奮してしまいました!
バレエを仕事にしているので、長く続けていくために“ワークスマート”を心がけています。がむしゃらにやって体が壊れないように、常に体と相談し続けることを意識しています」
毎日のルーティンはありますか?
「朝は……起きられないので、まず起きることが大事なんです(笑)。9時に出るなら8時55分まで寝ていたいぐらい。起きたらコンタクトレンズをつけて、筋肉が固まっているので熱いシャワーを浴びて出かけます。夜、寝る前は必ず勉強をします。バレエのことはもちろん、経済、自分の興味があるデザイン、ファッションなども。そうすると徐々に気持ちが落ち着いてくるのでリラックス効果があるんです。5分でも必要な時間。ほかに最近は『SHOGUN』にハマってしまって。とてもエキサイティングなドラマで、日本でお城を見た時も興奮してしまいました!」
先ほど、ジュリアンさんの踊りは「怖さ知らず」とおっしゃっていましたが、「怖い」ものはありますか?
「ジェットコースターが嫌いで怖いです(笑)。高い場所がね……。でも、本当に心から怖いのは、時間がないという理由で挑戦できないこと。ダンスをもっと広めたい、踊ることで勇気づけたい……そういう踊ることの尊さや魅力を広め続ける挑戦をしていきたいと思っています」
©Nicholas Mackay
年末年始にK-BALLET TOKYOの『くるみ割り人形』『シンデレラ』にご出演されます。どんなところに注目して見てほしいですか?
「『くるみ割り人形』ではくるみ割り人形と王子様を、『シンデレラ』では王子様を踊ります。K-BALLET TOKYOの作品はどれも、音楽、舞台の装飾、衣装がアメージング! 非現実的な世界へ誘う世界トップクラスの演出です。『くるみ割り人形』はクリスマスの夜に起こる魔法の世界、非現実的な夢の世界。この役は6歳の頃から踊っているので、今の自分が行き着いたファンタジックで誰もが笑顔になる踊りで魔法の世界を体感していただきたいです。それに比べると『シンデレラ』は現実的。リアルで人間的な王子さまを踊れるように今模索中です。観た人が王子さまとシンデレラの関係を通して、人生について勇気づけられるような……そんな役作りをしていこうと思います。ディレクターの熊川さんは私が憧れ続けているダンサー。K-BALLET TOKYOの作品に2作続けて出演できることに興奮しています。
バレエは敷居が高いと思われるかもしれませんが、一度観ていただいたら何度も観たくなるようなマジカルな世界を体感できると思います。『くるみ割り人形』なんてきっとクリスマスごとに観ずにはいられなくなりますよ。これって魔法にかけられるようなもので、私自身がバレエの魔法にかけられた人間のひとり。人生にはマジックが必要でしょ?」
©Nicholas Mackay
とっても美しい英語で、どんな質問にも「いい質問ですね」と言いながら、真摯に答えてくれるマッケイさん。ハードなスケジュールにも関わらず始終笑顔。人生何周目なのでしょうか? そして答えを考える姿も美しい!考えはとても大人びてしっかりしていますが、ジブリとポケモンとミッキーと、キャラクターがお好きなようで、奈良の鹿や寺院を見て、リアルなジブリを体感したと大興奮して話す姿は23歳の青年そのもの。次回の来日では温泉とサウナに行きたいそうです。
ジュリアン・マッケイさんを見られるのは……
〈テレビ放映〉2024年11月10日(日)深夜0時30分~『OTOBUTAI in 法隆寺』(MBS・TBS系列全国ネット)
〈バレエ公演〉2024年12月6日(金)~『くるみ割り人形』、2025年1月9日(木)~『シンデレラ』(ともにK-BALLET TOKYO)
©MBS
『OTOBUTAI(音舞台)』は、金閣寺、清水寺、東大寺など、京都や奈良の名刹、世界遺産を舞台に世界で活躍するトップアーティストが珠玉のパフォーマンスを奉納する、MBSの芸術イベントで、1989年から毎年開催されています。今年のテーマは「風」。奈良の法隆寺を舞台に、ラヴェルの名曲『ボレロ』に始まり『ボレロ』で終わる構成で、薬師如来が見守る荘厳な空間の中、感動的なパフォーマンスが繰り広げられました。9月に行われたこの舞台を11月10日(日)深夜0時半からテレビで放映します(MBS・TBS系列全国ネット)。ジュリアン・マッケイさんのほか、語り部の高橋一生さん、ピアニストのアレクサンダー・ガジェヴさん、ヴァイオリニストの服部百音さん、歌手の坂本美雨さんなど、多くのアーティストが出演。詳しくは公式ホームページにて。
K-BALLET TOKYOが作り上げるクリスマス最高の奇跡『くるみ割り人形』。巨大化するツリーや神秘的な雪の世界、色鮮やかな人形の世界……誰もが知っているストーリーを、唯一無二の演出で魔法の世界に迷い込んだような体験ができる本作に、ジュリアン・マッケイさんが出演。マッケイさん出演日は12月6日(金)~8日(日)、Bunkamuraオーチャードホールにて。
ロマンティックでどこまで美しく、そしてスリリングで哲学的でもあるK-BALLET TOKYOの『シンデレラ』にもジュリアン・マッケイさんの出演が決定! シンデレラの心の美しさを見抜き、シンデレラを幸せに導く誠実で情熱的な王子役。見目麗しい衣装や豪華絢爛な魔法の馬車など、童話を超えたファンタジックな世界観は必見です。マッケイさん出演日は1月9日(木)~11日(土)、東京文化会館 大ホールにて。
詳しくは公式ホームページにて。
取材・文/味澤彩子