
©Yuji Namba
PROFILE
おおつか・すぐる/1996年生まれ、千葉県出身。5歳からバレエを始め、2015年、第43回ローザンヌ国際バレエコンクールにてセミファイナリストに。スカラッシップを授与され「ハンブルクバレエスクール」に留学。卒業後、2017年にオーストラリア「クィーンランド バレエ」にヤングアーティストとして入団。2020年には帰国し、「東京バレエ団」にセカンドソリストとして入団。2021年にソリスト、2024年4月にファーストソリストに昇進。若手の層が厚い、同バレエ団の中で目覚ましい躍進を遂げ活躍の場を広げている若手ダンサー。
円熟期を迎えている東京バレエ団において、音楽性に富んだしなやかな動きと、深く掘り下げた独自の役作りで他を圧倒する存在感を示している大塚さん。主役への抜擢が続いている大塚さんが本連載に登場するのは3年ぶり2度目です。
前回ご登場いただいた記事は――
身を削って全身全霊で音と一緒に踊るダンサーは失敗を恐れないいつ踊れなくなっても悔いがないように毎日を過ごしたい
――「身を削って躍ることが好き」。バレエ愛を語っていただいた3年前から、ご自身で変化を感じることはありますか?
あの直後に大きな怪我をしたこともあって、本当に身を削ることはフィジカル的に難しくはなってしまったのですが、怪我をしたからこそ、「自分が舞台に立てなくなる日がいつかは来る」ということを痛感したんです。それは怪我だけでなく年齢的なことかもしれないですが、それ以来、今日辞めてもいつ辞めても悔いが残らないように一日一日を過ごすようになりました。そういう身の削り方をしています。
本番だけでなく練習も、これが最後であっても後悔がないように真剣に。そういった意味では役作りにも変化があるように思います。前は、ただがむしゃらに踊りそれが達成感に繋がっていましたが、怪我をして痛みを抱えながら舞台に立たなければいけないこともあるので、全力でやればいいというのではなく、全幕作品はストーリーにどれだけお客様を没入させられるか、非現実的な世界に誘えるかに重きをおいて役作りをするようになりました。もちろんテクニック的には失敗しない完璧でいるという前提ですが。
――それは大塚さんが自身に集中して踊ることのほかに、チームワークや団全体の総合力も大切になってきますね。
バレエ団の総合力の向上について考えるようになったのも変化のひとつだと思います。主役を任せていただけるようになったからだと思いますが、僕だけの踊りではなく、パートナーシップ、そして団員たちのモチベーションも大事だと思うのです。中央で踊るポジションになったからこそ、練習での姿勢でいかに周りについていきたいと思わせるか。自分自身が常に手を抜かず、一生懸命な先輩に憧れついていきたいと感じた経験があるので、本番だけでなく、日々の生き方やあり方みたいなことも気にかけるようになりました。
僕自身は、“どんなことがあっても文句を言わず自分の姿勢を崩さず、粛々とやるべきことをやり続けられる人”を尊敬しているので、僕もそうでありたいと思います!

©Yuji Namba
――3年間で踊る役柄も変化があったかと思います。プレッシャーなど感じることはありますか?
主役を踊らせていただける機会が増えたのが、この3年間の一番の変化であり成長だと思いますが、がむしゃらに踊って前向きな感想をもらえたらOKと以前は感じていたこともありました。ですが、今はそういうわけにはいかない。自分が経験したことがない舞台が決まっていくので、先のことを考えすぎてしまうと不安に押しつぶされそうになってしまうのです。そんな不安やプレッシャーに時間を割くぐらいなら、今できることにフォーカスして切り替えていくように心がけています。

ベジャールの『くるみ割人形』のM… ©Shoko Matsuhashi

『かぐや姫』の帝 ©Shoko Matsuhashi
主役にこだわらず、バレエ団を充実させていきたい
――この3年の間で特に印象に残っている舞台はありますか?
『ロミオとジュリエット』のロミオ役と、ベジャールの『くるみ割り人形』のM…役です。『ロミオとジュリエット』は、まだ怪我の影響があって痛みをこらえての舞台で、記憶から消えつつあるぐらい大変(笑)。ですが、クランコ(著名な振付師であるジョン・クランコ氏)作品で初めて主役を踊らせていただいた機会だったので、学ぶことが多い舞台でした。この舞台から秋山 瑛さんと全幕ものを一緒に踊るようになったのですが、パートナリングについて多くを学びました。クランコ作品の振付は非常に体力が必要なのですが、その上、ドラマティックバレエなので演劇性が求められて、自分だけでなくパートナーや舞台上にいるほかの役すべてを巻き込んで創り上げていくことで、観ている人たちを惹きつけていく作品。他の役との関係性、どんな目線をすればどんな風に見えるのか、そういう細かいディテールや仕草をかなり研究し、それが今踊る上での財産になっていると感じています。
ベジャールの『くるみ割人形』は、若い頃の感覚でひたすらがむしゃらに踊った舞台でした。役柄が自分に合っていて作り込む必要がなかったからかな。ベジャール作品は思いのままに踊れるところが、とても気持ちがよくひたすらに打ち込めた強い印象が残っています!

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――学びが多かった中で、今のご自身の課題、目標を教えてください。
改めて感じるのはフィジカルの弱さ。なので、課題は肉体強化です! 僕のフィジカルの強さが自分自身の怪我にも関係してきますし、ひとりで踊るのではなくパートナーがいるからこそ、大事な課題。バレエはセリフではなく踊りで感情を表現するので、フィジカルが強いことでもっと感情の部分も強く伝えることもできるはずですよね。
観客満足度が高い舞台を維持し続けることが目標。どの回の舞台を観に行っても、満足度が高い舞台を提供できればバレエ団が充実している証拠。僕が出演している回だけでなく、すべての舞台の満足度が高いバレエ団でありたいと思いますし、目標にしています。
個人というよりバレエ団全体の目標を考えてしまいがちなのですが、バレエ団が充実するためには、若手が主役を踊る機会があってもいいと考えています。同じ人が主役を踊り続けてしまうと若手が育たず、バレエ団が低迷する時期がきてしまう。頑張っている若手がいたらサポートしたいし、活躍の場を広げていってほしい。
「変わっている」って言われることも多いのですが(笑)。若手じゃなくなってきたからこそ、団全体の向上のことを考えて、日々自分自身も成長していきたいのです。これは、自分は根本的にバレエが上手ではないという思いが強く、テクニックでは誰にも負けないとは思えないからなんです。スタートがその考えだから、自分が主役でなくても、公演自体が納得いく仕上がりであれば問題ありません。だから、いつかは踊ってみたい役も主役ではない『白鳥の湖』のロットバルトや、『ロミオとジュリエット』のティボルト。主役を踊らせていただいていることに感謝しながらも、そこにはこだわらずに、幅を広げていきたいですね。

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テクニックの先にある、自分だけの表現を追求
――前回のインタビューでは「バレエが好きで、趣味が仕事になってずっと踊っていたい。だからストレスもない」とバレエへの情熱を語っていらっしゃいました。バレエを追求していく上で大切にされているこだわりを教えてください。
今ってSNSで、目を見張るようなテクニックを披露したバレエなどを観られるじゃないですか? すごいなぁと純粋に思いながらも、自分が目指しているのはそこではないんです。役ごとに踊りを変えるというのでしょうか? ただ勢いよく回る、ただ高く跳ぶ、ではなく、役柄の内面を表現する回り方、跳び方や歩き方があり、すべてで役を表現したいと考えています。動きひとつひとつにも役ごとの個性があり、それは当然、作品や役によって異なります。そうした繊細な役作りを通して、観客の皆さまの没入感をより一層高めていきたいと考えています。だから、経験のある役だとしてもパートナーが変わればアプローチも変わりますし、毎公演が挑戦。小さい頃から踊り続けていますが飽きることなんてなくて、どんどん深い魅力に取り憑かれていっている気がします。
未経験だからこそ新鮮な役作りができると確信している『白鳥の湖』
――9月の『白鳥の湖』では王子役デビューですね? どんな風に、役作りをされる予定ですか?
ほかの作品の王子よりも、16歳と年齢が若いんです。大事に甘やかされて育てられて、やりたいことは許されてきたイメージ。だからこそ、結婚しなくてはいけない、王様にならなくてはいけない、という現実を一気に突きつけられて受け入れられなくて悩んでいる。精神的に弱い部分があるので、凜々しい王子というよりは頼りない、情けない王子が、白鳥との出会いを通して成長していく過程を表現できたらと考えています。落ち着いた王子というより感情が溢れ出る素直さみたいなものも作り込んでいきたいです。未経験だから、みなさんが想像できないものを作り上げることができると感じていますし、舞台の上で、ジークフリート王子としてその時を生きたいです!
――『白鳥の湖』は数々の演出のバージョンが存在しますが、東京バレエ団はドラマティックで有名なブルメイステル版。見どころを教えてください。
3幕の王子の誕生日パーティのシーン。ここで婚約者を決めなくてはいけなくて、黒鳥(オディール)に騙されてしまうわけですが、ブルメイステル版は黒鳥と悪魔ロットバルトだけでなく、招待された各国の踊り手全員が王子を攻めて追い詰めていくんです。その圧倒的なパワフルなエネルギーはとてもテンションが上がります! 言うなれば、アクション映画を観ているようなテンション。僕は3幕では、スマートな雰囲気ではなく鈍感ですっかり騙されているお人好し、というような表現できたらと感じています。それでこそ王子以外の役とメリハリができ、エンターテインメント性が増すと思うんです。
東京バレエ団の『白鳥の湖』は、2幕の白鳥たちの一糸乱れぬ統一された踊りも圧巻です。あそこまで揃えるのは並大抵のことじゃありませんし、チームワークを越えた精神力を感じます。息を飲む美しさをぜひご覧ください。

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――最後に、JJの読者にメッセージをお願いします!
『白鳥の湖』は、人々に飽きられることなく長い間継承され続けている、観るべきバレエ作品のひとつ。そこには長く愛されてきた人々を惹きつける理由があると思うんです。そしてチャイコフスキーの音楽。聞いているだけで、湖の畔にいるような感覚に陥り、作品に瞬時に引き込む完成度と美しさは唯一無二だと思います。ブルメイステル版は3幕の展開が新鮮なので、初めて観る人はテンションが上がると思いますし、何度も観ている人も新鮮な気持ちで鑑賞できる作品。圧倒的な美しさとストーリー性を楽しめて満足感が得られる作品だと思うので、ぜひ観にいらして体感してください。

大塚さんの姿が観られるのは……ブルメイステル版『白鳥の湖』新国立劇場オペラパレス(2026年9月9日~9月13日)ほか他都市での公演あり
1877年3月の初演以来、世界中で愛され続けている不朽の名作バレエ『白鳥の湖』。数ある演出の中でも、ひときわドラマティックな展開で知られ、「ほかのヴァージョンでは物足りない」とまで言われるのがブルメイステル版。結婚を迫られ、心揺れる王子が出会うのは、純粋で気高い白鳥オデット。悪魔ロットバルトの呪いによって白鳥の姿に変えられた彼女は、人間と結ばれることでその呪いが解けると知り、王子は愛を誓います。しかし迎えた王子の誕生日、ロットバルトに連れられて現れたのは、オデットに酷似した黒鳥オディール。妖艶で巧みな誘惑により、王子は運命を大きく狂わされていき……白鳥たちが織りなす清らかで幻想的な世界観と、黒鳥が放つ官能的でエネルギッシュな世界観。その鮮烈なコントラストに加え、完璧に揃ったコール・ド・バレエの美しさは圧巻のひと言。観る者の心を深く揺さぶり、愛と運命の物語へと引き込みます。2026年9月9日(水)~13日(日)まで全5公演(新国立劇場オペラパレス)、ほか他都市での公演もあり。大塚さんは10日と12日マチネに出演予定。詳しくはHP(https://thetokyoballet.com/performance/swan2026/)にてご確認ください。
取材・文/味澤彩子



