
撮影/James-Bort
PROFILE
Guillaume Diop/2000年、フランス・パリ生まれ。4歳でダンスを始め、8歳でバレエに転向。2012年、パリ・オペラ座バレエ学校へ入学し、卒業後の2018年、難関を突破して名門パリ・オペラ座バレエ団に入団する。2021年には早くも『ロミオとジュリエット』で代役としてロミオ役を務め、主役デビュー。最下位階級であるカドリーユとして主役を踊った2003年のマティルド・フルステ以来のダンサーに。同年に、パリ・オペラ座バレエ団のもっとも有望な若手アーティストに贈る権威ある「カルポー・ダンス賞」「AROP賞」を受賞。その後も快進撃は続き、2022年にコリフェ、2023年にはスジェ(5つの階級の中の3番目)へと異例のスピードで昇格。そして同年、韓国・ソウルでの『ジゼル』公演後、通常は経るはずの階級、プルミエ・ダンスールを飛び越え、最高位エトワールに任命される。弱冠23歳、そしてパリ・オペラ座バレエ団始まって以来初の黒人エトワールとして歴史に名を刻み、話題に。公式Instagram @guillaumediop

『白鳥の湖』にてジークフリート王子 撮影/長谷川清徳
1661年にルイ14世が創設し、350年の歴史をもつ世界最古の国立バレエ団であるパリ・オペラ座バレエ団。2023年に同団初の黒人エトワールに任命され、その長い歴史に、名を刻んだ若きエトワール(バレエ団における最高位)、ギヨーム・ディオップさん。驚異的な長さの手脚が目を惹く神々しいビジュアル、類い希なる身体能力、“ゴム人間”と呼ばれていたこともあるほどの柔軟性、そして無垢で優しさが溢れる芸術性は、新世代のバレエダンサーの中でひときわ輝く宝石のような存在感です。

彗星のごとく容赦なく羽ばたく、カリスマ性溢れる若きダンサー
セネガル人の父とフランス人の母のもとに生まれたディオップさんは、4歳の時に姉の通っていたダンスのクラスに参加したことがダンスとの出会いだったそう。その才能はすぐに教師に見いだされ、バレエに転向するように強く勧められたことから、12歳で名門、パリ・オペラ座バレエ学校に入学。でも実は勉強が好きで、医者か弁護士になりたかったそう。今でもバレエダンサー引退後は、看護師になりたいと考えているとか。「ベストを尽くしたいのではなく、楽しみたいという気持ち」で踊っていた彼も、学校時代は悩みも多く16歳の時には辞めようと思ったことも。NYのアルビン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターでの5週間の研修がいい転機となり、苦難の中でも彼の才能は開花、6年後、首席で卒業、パリ・オペラ座バレエ団に入団します。

『ジゼル』にてアルブレヒト
その後の活躍は、まさに異例づくしの快進撃でした。エトワールに任命される前の2021年、『ロミオとジュリエット』でロミオ役を代役として務めると、その才能は一気に開花。続いて『ドン・キホーテ』『白鳥の湖』『ラ・バヤデール』と、エトワールであっても踊りこなすのが難しいとされるルドルフ・ヌレエフ版の主役に次々と抜擢されます。カンパニーから寄せられる大きな期待とプレッシャーを力に変え、華々しく舞台を成功させるディオップさん。その才能について、当時の芸術監督だったオレリー・デュポンも「何か特別なものがあると、すぐに気がついた。観客の共感をすぐに得ることができる重要な資質」と絶賛しています。
ふんわりと風をまといその空気さえも可視化してしまう優美なアームス。どこまでも伸びる長くしなやかな脚、高く舞い上がり、まるで空中で時が止まったかのように見える華麗なジャンプ。そして、全身からあふれ出る純粋な気品と優しさ。その踊りは、見る人の心を一瞬で惹きつけます。

『白鳥の湖』にてジークフリート王子 撮影/長谷川清徳
2024年、パリ・オペラ座バレエ団の来日公演では、『白鳥の湖』のジークフリート王子に配役されます。日本と深い絆で結ばれてきた同カンパニーが、大切に磨き続けてきた”宝石”を日本の観客へ特別に披露してくれたかのような、かけがえのない舞台。開演前から期待感に包まれた会場で、ディオップさんは鮮烈な日本デビューを飾りました。当時は演技面にまだ初々しさを残していたものの、それを補って余りある神聖な存在感は圧倒的。「この人が踊ってくれるだけで幸せ」と思わせる特別なオーラで、日本のバレエファンを魅了しました。
同僚たちが口を揃えて「信じられないほどの努力家」と評する一方、本国でのインタビューなどで見せる素顔は、舞台上の印象とは対照的。人懐っこい笑顔が印象的な、26歳らしいチャーミングな青年。唯一無二の個性と、己を磨き続けるたゆまぬ努力。その両方を備えたディオップさんは、これからさらに高みへと羽ばたいていくはず。誰とも重ならない唯一無二の輝きを放つ彼の踊りから、これからも目を離すことはできません。
ファッション界からも熱い視線を送られ、社会的な活動にも意欲的な新世代のダンサー
2023年にエトワールへ任命されると、その活躍の場はファッション界にも広がります。Jacquemus × Nikeのコラボレーションではグローバルキャンペーンのメインキャストに起用され、2024年秋冬ミラノ・メンズコレクションではミュウミュウのランウェイでモデルデビュー。さらに、プラダ、ディオール、バルマン、ルイ・ヴィトン、ロエベなど名だたるメゾンのフロントロウを飾るなど、今やファッションウィークに欠かせない存在となりました。2024年のパリオリンピック開会式では、ルイ・ヴィトンの衣装をまとい、パリ市庁舎の屋上でソロパフォーマンスを披露。その幻想的な姿は、世界中の視線を釘付けにしました。さらに2025年には、「Superfine: Tailoring Black Style(華麗なるブラック・スタイル)」をテーマに開催されたファッション界最大の祭典「MET GALA」に、ヴァレンティノの衣装で出席。今年1月、フランス・ブロンニャール宮殿で行われたNetflixオリジナルドラマ『ブリジャートン家』シーズン4のワールドプレミアで、同カンパニーのエトワール、レオノール・ボラックさんとバレエパフォーマンスも披露しています。『GQ France』『Icon』『Holiday』など数々のファッション誌の表紙を飾るなど、ダンサーの枠を超え、世界のラグジュアリーファッション界からも熱いラブコールを受ける存在へと成長しています。

一方、“ブラック・ライブズ・マター運動”をきっかけに、依然として白人ダンサーが多数を占めるパリ・オペラ座バレエ団に対し、人種差別や多様性の問題に向き合うことを求めるマニフェストを、黒人やルーツの異なるダンサーたちと共同執筆。さらに、フランス領ギアナでは、8~16歳の子どもたちを対象にワークショップを開催するなど、社会と真摯に向き合う新世代のダンサーとしても注目を集めています。
そんな彼は、インタビューでこんな言葉を残しています。
「他の有色人種の人たちと話すと、よくこう言うのです。何かを持っていないときは、肌の色が原因だと考え、何かを持っているときも、やはり肌の色が原因と考えてしまう傾向がある。そう考えると少し怖いし、多くの人が、自分にこんなことが起きているのは肌の色が原因だと考えていることも知っています。それは、なかなか受け入れがたいことですが、自分を安心させるために、私は自分がものすごく努力をしていること、そして今の自分があるのは、自分にその能力があるからだということを意識しているようにしています」※1
歴史を変えたエトワールという宿命を背負いながらも、その歩みを支えているのは、誰よりも自分自身を磨き続けるひたむきな努力と、芸術への揺るぎない情熱。ダンサーとして、一人の表現者として、さらなる高みを目指すディオップさんのこれからに、大きな期待が寄せられています。

ギヨーム・ディオップさんの姿が観られるのは……「エスプリ・ドゥ・ダンス」昭和女子大学人見記念講堂(2026年8月19日~8月22日)
パリ・オペラ座バレエ団で数々のエトワールを育ててきた名教師、ジル・イゾアール氏がプロデュース。卓越した審美眼で見い出した、ドロテ・ジルベールやギヨーム・ディオップをはじめ、ブルーエン・バティストーニ、ポール・マルクら、これからのパリ・オペラ座バレエ団を担う注目の若手ダンサーを含む11名が集結するガラ公演。日本でも人気を誇るエトワールから、次代を担う秘蔵っ子まで、現在の団の魅力と未来を一度に体感できる贅沢なステージ。バレエを深く愛するファンはもちろん、初めて鑑賞する方にも、その伝統と革新、そして若き才能の輝きを存分に楽しめる公演です。ディオップさんの出演予定は、Aプログラム(8月19日、20日)では『3つのプレリュード』『ランデ・ヴー』、Bプログラム(8月21日、22日)では『ラ・バヤデール』第1幕より『さすらう若者の歌』。
なんと7月16日(木)19時~NBS WEBチケット(https://www.nbs.or.jp/ticket/ticket.html)にて、25歳以下の方がお得に鑑賞できるU25シートが発売に! この機会をお見逃しなく。
2026年8月19日(水)~22日(土)までの全5公演。詳しくはHP(https://www.nbs.or.jp/stages/2026/esprit/)にてご確認ください。
取材・文/味澤彩子
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