コラム

タラレバ・ロンバケ・モダンロマンス 小田明志コラム#4

出会いがない生活も耐え難いが、出会いの選択肢があればあるほど幸せとも限らない。

そういうわけで、恋愛ドラマの中に登場するのは先の話だろうが「Tinder」に代表される出会い系アプリの普及スピードには目覚ましいものがある。次々と表示される異性ユーザーの顔写真を「いいね!」と「スキップ」に振り分け、お互いに「いいね!」を押したユーザー同士のみがメッセージ交換をすることができるという、極めてシンプルな構造のこのアプリのユーザー数は全世界で5000 万人以上にものぼると聞く。こうした新しいテクノロジーが、僕たちの出会いのチャンスを広げてくれているのは明らかで、コメディアンのアジズ・アンサリの言葉を借りれば「今日、スマートフォンを持っているなら、四六時中ポケットのなかに独身者向けのバーを持ち歩いているようなものだ」。

しかし、出会いがない生活も耐え難いが、出会いの選択肢があればあるほど幸せとも限らない。これはレストランのランチメニューと同じで、何種類もあるメニューからひとつを選んで決めるには時間がかかるし、ようやく選べたとしても、食事が運ばれてくるころには、別のメニューが気になっている。要するに、出会い系アプリによって「ほかにもっと良いパートナーがいるかもしれない」という期待を持ちやすくなっている状態では、目の前の恋愛関係に力を尽くすことが難しくなってしまう。

「30歳を超えたら結婚を急がなければ」という根拠なき呪縛や、テクノロジーの進化によってさらに色濃く浮かび上がる「もっとほかに良い人いるかも」という甘い幻想はJJ読者にとって避けては通れない価値観だろう。ただ、年齢を理由に焦ってパートナーを探したり、アプリでまだ見ぬ出会いを求めるばかりに、目の前の人と向き合えなくなっては意味がない。世間の価値観に縛られずに決断をすることは難しくても、そこから離れた自分の声を知っておくことは大切だ。

テレビとパソコンと携帯の電源を切った時、頭の中に誰の顔が浮かぶだろう

 

 


 

小田明志

おだ・あかし 1991年生まれ、25歳。東京都出身。編集者。高校在学中、17歳の時にカルチャー雑誌『LIKTEN』を創刊。一躍話題を集める。2016年11月には、発行人兼編集長を務める、サッカー選手のでないサッカーマガジン、『OFF THEBALL 02』を発表。

 

Illustration/小田明志

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