忙しそうな相手に仕事を依頼するときや、言いにくいことを伝えるとき、あなたはどう声をかけていますか?
いきなり頼み事を言うのは厚かましく思わるかもしれませんよね。特に、納期や決算の直前、月末などの慌ただしい時期には、相手をイラッとさせてしまうことも……。
そこで今回は、言いにくいお願いをするときに役立つ表現をご紹介します。
(1)「ご多用の折に恐れ入りますが」
相手の忙しさを気遣う代表的なクッション言葉としては、「お忙しい中すみませんが」「慌ただしい時期に恐縮ですが」などが知られていますよね。
ですが、多忙であることをもう一段階上品に言い表した、「ご多用」もぜひ覚えておきましょう。相手は用事が多く、忙しいだろうと予想して用いる表現です。
「ご多用の折に」「ご多用のところ」「ご多用中とは存じますが」のように使います。
なお、ビジネス会話や、接遇用語(来客などに応対する際の言葉遣い)としては、「ご多“忙”中」という言い方はあまりしませんので、「ご多“用”中」と覚えておくようにしましょう。
(2)「お時間が許せば」
忙しい相手に依頼するときには、押し付けがましくならないよう、「もし、万一できるようなら」という控えめなニュアンスで頼みましょう。
そのフレーズの代表格が、「お時間が許せば」「もしご都合がつくようでしたら」です。
ダメもとでのお願いなら「もしお手すきのときがおありでしたら」という言い方もできます。「お手すき」とは「手の空いたとき」を指します。
また、控えめに頼むときには、クッション言葉を付ける他にも、「~していただくことは可能でしょうか」と疑問形で打診するのがおすすめ。「~していただけたら幸いです」という柔らかい言い方も好印象です。
(3)「誠に勝手ながら」
急に提出期限が変わってしまったり、前より安価で案件をお願いしなくてはいけなかったり、お客様の希望する日程では予約を受けられなかったり……。こちら側の都合で、相手に負担や迷惑をかけてしまうときもありますよね。
そんなときの前置きフレーズが、「誠に勝手ながら」です。
この「ながら」は「〜ですが」という意味の逆接。「こちらとしても勝手なことを言っているのは重々承知しているのですが、どうしても……」という申し訳なさを込めて言いましょう。
(4)「このようなご無理をお願いするのは忍びないのですが」
少々無茶なことを頼むときは、無神経な人だと思われないよう、気を付けたいもの。こちらとしても苦しい思いをしてお願いしていることを伝えます。
「このようなご無理をお願いするのは忍びないのですが」というフレーズを用いましょう。
この「忍びない」は「見るに忍びない」などとも使うように、「心苦しくてつらい」「耐えられない」という意味の言葉です。
「心苦しいのですが」「申し訳ないのですが」などの言い回しもあります。「それでも、どうしてもやって欲しいのです」という気持ちを込めて伝えてみてくださいね。
(5)「万障お繰り合わせの上」
会議やミーティング、新年会など、「この人にどうしても来てもらいたい」という機会ってありますよね。
身近な友達なら、「絶対に来てください!」と強く言えますが、目上の相手にはそうは言いにくいもの。「予定を調整して!」と伝えづらいような内容は、あらたまった表現で伝えるとよいでしょう。
「万障お繰り合わせの上」はそんなときに役立つ表現です。
「万障」は「万(よろず)の差し障り」、「お繰り合わせ」は「調整すること」を意味します。つまり、「ありとあらゆる障害を調整して」という意味になります。
やや強めの表現ではありますが、格式のある言葉なので、不躾な感じにはなりません。結婚式などの式典にお誘いする場合には、「ご来臨(ご臨席、ご出席)を賜りますよう」と続けましょう。
いかがでしたか?
相手が忙しそうにしていて気が引けても、お願いすべきことは出てくるもの。
そんなときには、今回ご紹介したような言い回しを参考に、相手に快く応じてもらえるようなお願いの仕方ができるとよいですね。
文/吉田裕子
国語講師。塾やカルチャースクールなどで講師を務める他、『テストの花道 ニューベンゼミ』(NHK Eテレ)に国語の専門家として出演するなど、メディアでも活躍中。東京大学教養学部卒。
画像/PIXTA(ピクスタ)(metamorworks、Pangaea、8×10、xiangtao、Fast&Slow、Sunrising) 参考文献/吉田裕子『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』(かんき出版)