コラム

「優雅な生活こそ最高の復讐である」 小田明志コラム#1

「JJ圏外から一言」#1

ぼんやりTVを観てたら おかしな夢をみていた
気がついて時計を見ると トーキョーは夜の七時
あなたに逢いに行くのに 朝からドレスアップした
ひと晩中愛されたい トーキョーは夜の七時

 今年のパラリンピックの閉会式中に使用された、ピチカート・ファイヴの代表曲「東京は夜の七時」。リオで披露されたのは椎名林檎が編曲したバージョンで、歌詞も原曲とは違うものだったが、オリジナルの歌詞はこう続く。

待ち合わせたレストランは もうつぶれてなかった
お腹が空いて  死にそうなの
早くあなたに逢いたい

「あなた」と逢いたいのに逢えない主人公を描いたこの曲は、なんと「あなた」との遭遇を待たないままに終わってしまう。華やかな曲調に耳を奪われがちだが、歌詞だけをみれば、曲調とは正反対の寂しさが漂っているようにも感じる。

 1993年、この曲が発表された年は、好景気に湧いたバブル時代の終わりを人々が実感しはじめた時期。一時は4万円台に手が届くかとも思われた日経平均株価も、この頃にはほぼ半分に近い額まで下落していたという。歌詞のとおり経営が立ち行かなくなるレストランも多かったことだろう。どこか寂しさを感じさせるこの歌詞は、当時を生きた人々が感じはじめた、華やかな時代の終わりを表現したものなのかもしれない。

 この時に始まった日本の経済低迷は、今日にいたるまで20年間以上も続いている。だから、JJ読者の多くは日本の好景気をもちろん経験したことがないし、人口が減少し、4人に1人が65歳以上の高齢者であるという日本の現状も踏まえれば、これから先も好景気を謳歌する時代が来るとは考えにくい。

 それにもかかわらず、人口の増加と経済の成長を前提としたシステム(たとえば、年金制度)は、変わらず存在していて、若者たちは理不尽と分かっていても、その時代遅れのシステムに乗らざるを得ないのが実情だ。若者が選挙に行くようになればこの制度も変わるだろう、という人もいるけれど、圧倒的多数を占める老人票が相手となると、若者の投票率が多少上がったところで、結果に大きな影響がでるとも思えない。

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